食事をする、しゃべる…、そんなときに絶え間なく動く舌。普段、舌を意識する場面はそう多くはありませんが、考えてみると、とても大切な存在ですよね。今回は舌と健康の関わりを取り上げます。舌からのサインを見逃さないことも大切ですよ。
ここ数年、よく耳にするようになった健康寿命という言葉。心身ともに自立し、健康的に生活できる期間のことをいいますが、健康寿命を延ばすには食事内容とともに、〝きちんと食べられる〟状態を保つことも重要。そのために、舌はどのような役割を担っているのでしょう。京都府立医科大学大学院医学研究科歯科口腔科学 医学博士の大迫(おおせこ)文重さんに話を聞きました。
京都府立医科大学大学院
医学研究科歯科口腔科学
医学博士 大迫文重さん
「健康的に〝食べる〟ために大切なのは、舌の健康だけではありません。摂食えんげを例にしても、口唇、歯、喉などが複雑に関わってきます。口腔(こうくう)内全体のケアを心がけてください」
「舌は、筋肉と血管、神経からなる器官です」と大迫さん。この筋肉が、物を食べるときに特に重要なようで…。
「食事をするときの一連の動作を〝摂食えんげ〟といいます。食べ物を認知する、それを口の中に入れる、その後、唇を閉じ、奥歯で食物をかみ、かみ切ったものを舌でまとめて喉に送り込むという流れです。舌の筋力が落ちると、まとめる・送り込むという動作がスムーズにできなくなってしまいます」
大迫さんによると、高齢者になると舌の筋力は徐々に衰えてくるそう。筋力をしっかりと維持できれば、高齢者によくみられる〝誤嚥(ごえん=食べ物が誤って気管に入ってしまう症状)〟を防げそうですね。
「実はそうとも言えません。誤嚥は、舌の筋力とともに、〝飲み込む〟という喉の機能が低下した場合に起こります。ただ、舌の筋力が弱まることで食べ物が喉に送り込まれず、口の中に残ってしまうことはあります。そんなときは、時間をおいてから喉に落ちていく場合も。そうすると、誤嚥のリスクは高まります」
舌の筋力の低下は唾液の分泌とも関係があると大迫さん。
「唾液は口の中の細菌を流すという大切な働きを持っています。その唾液を出すためには、口の中にある唾液腺を刺激しなければなりません。刺激の一つが、舌の働き。食事をするときの動きでも刺激され、唾液が分泌されるのです。つまり、筋力が低下し、動きがにぶくなると唾液の分泌量が減少し、自浄作用の働きも落ちることに。口の中の環境が悪くなると、歯周病やウ蝕といった感染症にかかる可能性が高くなると言えるでしょう」