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ミステリー小説の世界へ

ミステリーを知る人々に聞く、その魅力とは?

歴史上の人物や出来事が絡む楽しさも
伊吹 亜門さん

1991年愛知県生まれ。京都市在住。大学在学中は同志社大学ミステリ研究会に所属。2015年「監獄舎の殺人」で第12回ミステリーズ!新人賞(東京創元社主催)を受賞。2018年、「刀と傘 明治京洛推理帖」(東京創元社)でデビュー。昼は会社勤めをしながら執筆活動を続ける

デビュー作で第19回本格ミステリ大賞(本格ミステリ作家クラブ主催)を受賞した伊吹亜門さん。両親の影響で昔から本は身近だったとか。

「小学生のときは綾辻行人さんの『館』シリーズに夢中に。まだ推理はできませんでしたが、とにかく面白くて。これまで読んださまざまなミステリーが、今の作品づくりにも関係しています」

1面で紹介した「刀と傘 明治京洛推理帖」の探偵役・江藤新平も、以前読んだ本に描かれ気になっていたとのこと。

「江藤を出せば大好きな京都も舞台にできる、そんな思いもありました。江藤はトリックを解くのが、もう1人の探偵役・師光は人の心をおもんぱかるのが得意な人物に。師光が尾張出身なのは私の地元が名古屋だからなのですが、後から尾張藩は徳川家の中で力がある一方で勤皇思想を持つ、特異な藩だと気づいたんです。偶然ですが、師光の立ち位置にうまくつなげられました」

幕末・明治の時代ならではの動機などにもこだわっているそう。

「ホワイダニット(※1)、倒叙もの(※2)といったパターンに沿いつつ、新政府と旧幕府の対立などが関わる動機を描いています。歴史は資料で調べますが、記録が存在しない場合は創作することも(笑)」

作中には「烏丸今出川」「麩屋町通」などの地名や通り名もちらほら。

「なじみの食堂もこっそり登場させたりして遊んでいます。次回作も舞台は京都、主人公は師光。薩長同盟が絡み、幕末のビッグネームも出てきます。どうぞ楽しみにしていてください」

(※1)動機の解明を重視した推理小説
(※2)最初に犯人が明かされ、主に犯人の視点で物語が展開されていく推理小説

熱いファンを取り込む不可思議さと合理性
SRの会

〈SRの会〉1952年、京都で誕生したミステリー小説のファンクラブ。〝SR〟とは〝sealed room(密室)〟のこと。全国のミステリーを愛する会員が所属。定期的に開く例会は作品について語り合ったり、会報に関する相談をする場に

右から谷口さん、本多さん、黒木さん。例会で盛り上がるという〝1分ゲーム〟を再現。本多さんが出す「動機は?」「凶器は?」といったお題に、頭文字を決めて答えていきます(撮影協力/立誠図書館)
〝1分ゲーム〟では「愛情」「アイスピック」など、皆さんすらすら回答! 右から奥村さん、香山さん、乾さん(撮影協力/立誠図書館)

「密室の理由が驚き」「ありえないけど面白い!」。本を囲んで盛り上がる、ミステリーファンクラブ「SRの会」のメンバー。会員歴40年以上の3代目会長・谷口年史さんをはじめ、「昨年12月に入会しました」という乾知佐江さんまで、関西例会の常連6人が集まってくれました。

「子ども時代はルパンやホームズのシリーズが好きで。買った本を枕元に並べていました」と本多良隆さん。奥村和彦さんは「中学生になると横溝正史やアガサ・クリスティも読みました」、香山友里さんも「小学校の図書館で江戸川乱歩にはまりました」と、思い出の作家や作品が次々飛び出します。

谷口さんからは「昔は名作が絶版で手に入らなかったので海外小説を原文で読むことも多かったです」との話も。皆さんに読書量を聞いてみると、最多数は黒木日出男さん。「年200冊くらいでしょうか」。ミステリーだけでその数とは!

「不可思議なことも最後は合理的に解決されるのがミステリーの面白さ」と谷口さん。「小説なのだから、事件は現実味がなくてもいい。展開が分かる場合もありますが、予想のそのまた裏をかかれるのも楽しいものです」

謎を解く面白さはいつの時代も共通
小森健太朗さん

近畿大学文芸学部准教授、評論家、作家。「英文学の地下水脈」(東京創元社)で日本推理作家協会賞受賞。著書に「探偵小説の様相論理学」「中相撲殺人事件」(いずれも南雲堂)など

「日本のミステリー界では1980年代後半に大きな動きがありました。綾辻行人、法月綸太郎、有栖川有栖らが次々とデビューし、謎解きを重視した作品を発表。この流れは〝新本格ムーブメント〟と呼ばれ、ロジカルがしっかりとした本格ミステリーのブームが起こりました。

トリックも時代によって変容します。例えば、海外小説だと19世紀には自転車、20世紀には飛行機で移動することが驚きのトリックとして描かれました。テクノロジーの古さを感じさせないようにと、異世界や過去を舞台にするのも一つの工夫ですね。一方で京都が舞台の作品も多数。平安朝の文化など、歴史が仕掛けになりやすいのです。

シャーロック・ホームズとワトソンのような探偵コンビは根強く人気。特に2000年代のミステリーライトノベルは、キャラクターに軸を置く傾向にあります。

キャラクターも大事ですが、個人的にはやはり手掛かりを頼りに犯人を当てたり、真相を推理したりする楽しさがミステリーの核だと考えています。謎が解かれる面白さを感じるのは、いつの時代も共通していると思います」

「筋読み」

著/田村和大 宝島社文庫 715円

二つの事件で全く同じDNAが検出。どうなるのかと読み進めました(YH)

「十角館の殺人〈新装改訂版〉」

著/綾辻行人 講談社文庫 946円

「館」シリーズの1作目。このからくりの館を造ってみたい!と建築の道に進んだ(TK)

「興奮」

著/ディック・フランシス、訳/菊池光
ハヤカワ・ミステリ文庫 946円

スピードとスリルと意外性を備えた、上質な〝競馬〟ミステリーです(KH)

「いけない」

著/道尾秀介 文藝春秋 1650円

最後の1ページで世界が一気に変わります。誰かと答え合わせしたくなる読後感(YH)

「骨を弔う」

著/宇佐美まこと 小学館 1760円

発掘された白骨からよみがえる記憶とあぶり出される秘密。最後はどんでん返しです!(TY)

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