学生時代、勉強は好きでしたか。それとも、そんなには? 大人になってからはどうでしょう。「キャリアアップのために資格取得の勉強をしている」「知識を増やすために学校に行っている」など、さまざまな〝学び〟に取り組む人がいますが、そこには大人だからこその喜びや充足感もあるようです。
京都シニア大学学長 井上満郎さん
京都市・烏丸夷川にある「京都シニア大学」は、55歳以上の人を対象にした〝生涯現役の学習の場〟です。
こちらで学長を務めるのが歴史学者・井上満郎(みつお)さん。普段から、学びに向き合う多くのシニアと接しています。
「大人の学びのキーワードは〝つながり〟だと思うんです」と井上さん。
学ぶことで思想が深まり、経験も積み重なります。ですが、「そこから次の行動へと移ってほしい」と井上さんは話します。
例えば生涯学習の場で京都の歴史を学んだら実際に史跡を訪れる、英語を勉強したら外国人と話してみるなど。誰かに自分が得た知識を教えてあげるのもいいのだとか。でも、それはなぜでしょうか。
「会社をリタイアした方であれば、社会とのつながりを求める人も多いと思います。何かしらの貢献をしたい、社会の一員であることを自覚したいという気持ちからです。学んだことを確認したり、伝えることは地域や人とのつながりを生み出します。そういった行動は、生きる意欲になり、パワーになるんです」
京都シニア大学には、現在100歳の受講生も通っているそうです。
「その年齢になっても学びの場に出てきて自分を深めようとする。そういった姿を見ると、こちらも元気をもらえます」
学ぼうという姿勢は、周りの人にも良い影響を与えるのですね。そうであれば、親が学んでいる姿を子どもに見せることも教育の一つになるのかもしれません。
ところで井上さん自身、研究者として〝学び〟を続けている立場ですが。
「研究室でひたすら勉強をするだけではなく、私は積極的に講演会や解説などもお受けしています。そういう機会があると、そのテーマについて勉強をし直すことになり、新しい知識が増えますから」。そして、そこからまた人との〝つながり〟が生まれるのですね。
大人になってから学ぶ、ということについて、脳科学の視点からも話を聞きました。
「脳は筋肉と一緒で、使わないと退化します。そういう意味では、何かを学び始めるのに遅いということはありません」。そう話すのは、同志社大学大学院 脳科学研究科教授の藤山文乃さんです。
「決められた授業を受けていた子どものころとは違い、大人は自分が興味のあることに、自分の意志で取り組みます。関心のあることを深く知ることで人生は豊かに、知らなかった事柄を理解することで自分の世界は広がります。好きなことだからこそ、『学ぶって楽しい』と思えるんです」と藤山さん。
「子どものときは勉強が嫌いだった人も、今、興味があることに目を向けると新しい自分に出あえるかもしれませんよ」