2面では、研究者の意見を紹介。栄養、心理、教育の観点から、家族で一緒に食事をすることについての考えを話してもらいました。
京都華頂大学 現代家政学部
食物栄養学科
教授 坂本裕子さん
1面に登場した小阪さん夫婦のように、家族の雰囲気や考え方が似ていると感じる人も多いのでは。
「一緒に食事をすることは、家族が似る理由の一つ。食事中の会話を通じてそれぞれの考えや価値観が伝わります」とは、京都華頂大学現代家政学部の教授・坂本裕子さん。
「例えば、『今日の野菜炒めは、味付けがちょうど良くておいしい』という話題。このくらいの味付けがおいしいのだという認識が、家族間で共有されます。ともに食べるときのこういった経験が積み重なり、家族の雰囲気や考え方が近くなっていくのです」
栄養学の視点からも話を聞きました。
「どのように食べたかも健康に関係します。一人だとすぐに食べ終わってしまいがちですが、家族と話しながら時間をかけて食べると、糖の吸収が穏やかに。糖尿病のリスクが低下する上、満足感も得られますよ」
「ともにご飯を食べることは、精神面にも影響します。マナーを注意される場面があったとしても、家族との食事によって子どもは愛情を確認し、安心感や自信を持って、アイデンティティーを形成します。社会に出る前に、家庭の中で安定した精神を育むことが大切です」
愛情と聞くと手作りの料理が思い浮かびますが、「そうとは限りません」と坂本さん。
「買ってきたおかずを出すにしても、皿に盛るなどの準備を楽しみながら家族と一緒にすることで、愛情や心遣いが伝わります。手作りだけが愛情の示し方ではないのです」
京都女子大学
発達教育学部教育学科
教授 表真美さん
京都女子大学発達教育学部の教授・表真美さんが教えてくれたのは、家族との食事の歴史について。
「食卓での家族のだんらんが一般的になったのは、サラリーマンと専業主婦という夫婦が増えた戦後のこと。家族の生活時間が合わせやすくなったのが要因の一つでした」
教科書や雑誌、テレビが広めたイメージも影響しているそう。
「よく家族全員で食事をする描写がありますよね。そうしたイメージが根付き、家族一緒に食事をすることは当たり前という風潮が高まりました」
家族そろって食事をすることで、「精神的に満たされます」と表さん。
「家族とともに楽しく食事をすると、子どもの自尊感情は高まり、何事にも積極的になる傾向があります」
子どもだけではなく、親にとっても心理面でプラスになるとか。
「食事は生きる上で欠かせない、基本的な行為です。一緒にご飯を食べることは、親にとって子どもをきちんと育てているという自信になります」
また、ともに食事をするのは、家族ならではの行動だと話します。
「動物もそうですが、食べているとき、人間は無防備になります。一緒に食事をするのは、ありのままの姿を見せ合っている状態。自分らしく過ごしているところを見せられる家族は、気を許せる相手なのです」
意識せずとも一緒にご飯を食べるのは、家族だからこそなのですね。
立命館大学
文学部人間研究学域
准教授 山内清郎さん
「ともに食べる食事は、それ自体がコミュニケーションの手段になります」とは、立命館大学文学部・准教授の山内清郎(せいろう)さん。
「普段は忘れがちですが、人は分け与えることに喜びを感じます。おいしい食べ物ならなおさら。食事はうれしいものだと、子どもも本能的に知っています。家族との食事は、そんな喜びやうれしさを伝え合う役割を果たしています」
家族との食事によって、子どもが身に付けるものの一つがマナー。
「〝箸を正しく持つ〟のようなマナーは、数日では達成できない長期的な目標となります。まだ正しく持てないのに、子どもが箸で遊んだりすることも。そんなときはイライラするかもしれませんが、長期的に見れば、食卓は子どもの成長が見られる場所だといえます。長期的な視点と目の前のことを注意する視点を持つと、大人の心にも余裕が生まれます」
子どもが自立していく上でも、家族そろっての食事が大事だと山内さんは指摘します。
「親とともに食事をしていた子どもも、成長するにつれ1人でファストフードを食べたりと、さまざまな食事を経験するようになります。このときに戸惑いや罪悪感を覚えがちなのは、これまで家族と一緒に食事をしてきた土台があるから。親にとっては寂しさもありますが、気まずく思う感情を乗り越えてこそ、自立が実現します」
巣立ったら、今度は子どもが新たな家庭を築く段階。
「夫婦はそれぞれ、育ってきた食卓が違います。二つの食卓の雰囲気が融合され、新たな家族が生まれるのです」
(OM、34歳)
(MJ、56歳)
(KM、57歳)
(SE、52歳)