7月、祇園祭が始まります。祇園祭は、「鱧(はも)祭」とも呼ばれていますね。ハモは夏の京都に欠かせない魚ですが、そもそもハモってどんな魚? そしてハモが京都の夏の風物詩になった理由は―。さまざまな角度から探ってみました。
「三京田村」の代表取締役社長・田村靖也さん(左)と「丸源商店」の代表取締役社長・松岡邦治さん(右)。2人によるとハモの落としを買うときは、色が白く、ふわっとボタンの花が咲いているように開いているものを選ぶと良いそうです
5月下旬、京都市中央卸売市場第一市場を訪れると、あちらこちらにハモの姿が。
「ハモは一年中取れますが、多いのは6月から9月。なかでも7月、今からですよ」と、同市場内で水産物を取り扱う仲卸業者の「三京田村」代表取締役社長・田村靖也さん。夏にしか取れないわけではないのですね。
取扱量も7月がダントツ。同市場の2016年実績では年間の取扱量90万2000キロのうち、7月は22万1000キロ。およそ4分の1がこの月に集中しています。やはり、祇園祭のシーズンに食べる人が多いようです。
産地は幅広く、全国各地から届くそう。
「特に兵庫や徳島、愛媛など瀬戸内海産が多いです。韓国から空輸されるハモも脂がのっていて人気。韓国産のハモは国内産に比べて頭が小さく、目も小さいんですよ」
確かに右の写真の国内産(上)と韓国産(下)を並べると、違いは一目瞭然。国内産の方がどう猛な顔つきです。
ハモは、夏の京料理の主役の一つ。それだけに多くの料理人が市場で購入しています。
同じく同市場内、仲卸業者の「丸源商店」の代表取締役社長・松岡邦治さんは、「うちでは東京の百貨店にも送っています。それだけ京都には良いハモが集まるということでしょう」と話します。
ハモといえば“骨切り”も有名ですね。ハモは小骨が多いため、この作業が欠かせません。骨切りには、今は機械も活躍。スーパーなどでハモが扱われるようになった理由は、この骨切り機が導入されたことが大きかったそう。
「以前はすべて手作業でした。機械が入ったのは15年ほど前で、多いときは1日で2000匹の骨切りをしたこともあります」(田村さん)
ハモは「梅雨の水を飲んでおいしくなる」ともいいますが、旬は今の時季なのでしょうか。
「ハモが子を持つのは8月。その前の祇園祭のころは産卵にむけて脂を蓄え、身も皮も骨もやわらかくておいしいと思います」(松岡さん)
そしてもう1回、秋にもハモの旬があるそうです。「産卵を終えた秋にはまた脂を蓄えます。マツタケと土瓶蒸しにするとおいしいですよね」とは田村さん。夏も秋も、ハモは京の食を彩ってくれるのです。
京都水族館飼育スタッフ・河﨑誠記さん。
「ハモは関節が多いのも特徴。体をくねらせて泳ぎます」
次に向かったのは「京都水族館」。「京の海」2階エリアにハモの水槽があります。水槽には砂が敷かれ、ゴツゴツとした岩やトンネルのような穴が見えます。これがハモの巣穴。「ハモは、水深100mより浅い砂地に生息していて夜行性。昼間は身を隠すために、岩の隙間や巣穴でじっとしています。日本近海には九州から福島県あたりまで広く生息しています。ここにいるのは、宮津市で捕獲されたものです」と教えてくれたのは、同館飼育スタッフの河﨑誠記さんです。
水槽を見ていると、身をくねらせて泳いでいたハモが巣穴にするするっと入って、顔だけ出しました。
「こうして獲物を待ち伏せし、魚やエビなどが通ったらパクッと食べます。獲物を逃がさないように上下の前歯が鋭く、内向きに生えているのも特徴です」
長時間、生きたまま運べる生命力の強さについては、ハモの表面の“ぬるぬる”も関係しているそう。
「ハモにはうろこはありませんが、粘液で体をガードしているため病気になりにくく、傷ついても菌が入りにくいのです」