異分野の2人が話してみると

お酒に着物。京都の文化を引き継ぐには

  • しろうべえさん/京都市生まれ。2013年に出版社「しろうべえ書房」を立ち上げ、地域コミック誌「おかもちろう」を創刊。おかもちに入れて本の売り歩きをスタート。2015年、京都に関する作品を収録した文芸誌「洛草」を創刊
  • 満茶乃さん/兵庫県生まれ、京都市在住。絵本の読み聞かせや日本文化に関する催しを行う「福地空果梨堂(ふくちうつかりどう)」を主宰。月に1度、イベント「HAPS OUR SCHOOL うっかり母ちゃんのにほんばなし」を開催

「しろうべえ書房」で行った、しろうべえさんと満茶乃さんの対談。お酒好きという共通点を持つ2人の話は、京都、そして日本文化へと発展していきます。

満茶乃 あら、お子さんの泣き声が。今おいくつなんですか?

しろうべえ 4カ月になります。満茶乃さんのお子さんは?

満茶乃 小学2年生、3歳、1歳の3人です。うっかり者でバタバタと落ち着きがないので、「独身ではなくて子どももいるんですね!」と驚かれることも。

しろうべえ 子育て世代も、好きなことに打ち込んでいる人がたくさんいますよね。

満茶乃 〝女性〟というと、最近のお母さんは社会とのつながりを意識する人が多い気がします。

しろうべえ 私が「京都」と「女性」というワードから思いついたのが京都の〝女酒〟(※)です。甘口だけれど少しツンとくる感じが、京都の女性にも通じると思います。

満茶乃 わかります。普段から日本酒を飲まれるんですか?

しろうべえ 日本酒ですね~。ビール、焼酎、日本酒と好みが移っていきました。

満茶乃 私も結局日本酒に落ち着きました。和食の料理人の夫とは、互いに日本酒好きというのが縁で仲良くなったんです。日本酒が取り持った仲ですね。

しろうべえ 東京的な感性で書かれていますが、京都とお酒の文化についての入門的な本が太田和彦さんの「ひとり飲む、京都」(新潮社)です。一緒に飲み歩いているような感覚で楽しく読めますよ。

満茶乃 京都は日本酒を文化として残そうという活動が進み、女性からの人気も高まっていますね。女性の杜氏(とうじ)さんも活躍しているそうです。

しろうべえ 忍耐力がいる作業は、女性に向いているかもしれません。何枚も絵を描くアニメの作業も、女性が得意なのではと思います。

満茶乃 そういえば、テレビでアニメ界の巨匠が、近頃業界の危機を感じると話していました。

しろうべえ 海外に製作を発注しているケースが多く、若手が育っていないようですね。

満茶乃 着物文化も同じです。海外で縫製した品が増えてきていて、京都でも着物を作れる人が減っているみたい。

しろうべえ 安さばかりを追求しては、日本の技術力は弱まってしまいます。

満茶乃 安い着物は気軽に着られる点は魅力。まずは着てもらい、その上で良い品を知ってもらえたらと思います。

しろうべえ ちなみに、今着ている着物は?

満茶乃 曽祖父の着物を仕立て直した品です。

しろうべえ 男物だったんですか! とてもそうは見えません。

満茶乃 文化を引き継ぐことは、やはり大事ですよね。

※伏見に代表される、まろやかな甘口の日本酒

家と住民は雰囲気が似るもの

  • 大武さん/愛知県生まれ。住宅メーカーに就職後、京都市に移住。銭湯に魅了され、フェイスブック「ひつじがのぞいた銭湯」にイラストを載せてその魅力を紹介。昨年2月、「ひつじの京都銭湯図鑑」(創元社)を刊行
  • 大槻さん/京都市生まれ。「ハートフルサポートcocomado」代表。ワシントン大学へ留学後、京都大学大学院にて臨床心理学を修学。学校や企業などでカウンセラーとして活躍。著書に「○○でつらい人へ」(ギャラクシーブックス)

愛知県出身の大武千明さんにとって、京言葉は独特のよう。大武さんと大槻まどかさんが、建物、心理学、それぞれの観点から〝京都〟を分析します。

大槻 京都で生まれ育ったせいか、書道にお茶、華道など、女性が集まるさまざまな習い事をしました。育った環境はまさに〝京都〟と〝女性〟です。

大武 私が京都に来たのは4年ほど前。京言葉独特のニュアンスには、まだ慣れていません(笑)。

大槻 習い事の場は、京言葉であふれていましたよ。わざと遠回しに表現する言い方は今のカウンセリングの仕事に生かされているかも。ところで、大武さんはいつから銭湯に興味を?

大武 京都に来てからです。もともと古いもの、特に昔の建物が好きでした。京都を歩くと銭湯が多いことに気付き、通うようになったんです。この魅力を多くの人に伝えたいと思いましたが、ほかの店のように写真で紹介することができません。

大槻 皆さん裸ですものね(笑)。

大武 そこで、イラストを描くことに。実は、美術大学に行きたいなと考えていた時期もあるんです。しかし、就職が厳しいと思い、結局はデザインができて仕事にも役立ちそうな建築学に進みました。

大槻 私も美大進学を考えたことがあります。絵を描く心理に関心が出てきて、心理学を学ぶことになりました。

大武 美大をやめてほかの道に進んだなんて、意外な共通点! 

大槻 建物がお好きとのこと。仕事で家庭訪問をしているときに気付いたのですが、家と住民の雰囲気って似ていませんか。

大武 確かに。住民が使った歴史が刻まれていますものね。京都の建物は繊細な造りをしているイメージ。京都の人の繊細さに通じるような気がします。

大槻 繊細だけれど芯が通った強いところがあるのが、京都の人の内面ではないかと思います。ある意味、少しギャップがあるというか…。京都の人と関わるのって、しんどいときはない?

大武 言葉の意図がわからない分、しんどくないかも…。でも、京都の言葉を話そうとすると「京都人ぶっている」と思われそうで少し怖いです(笑)。

大槻 大丈夫! 私がレクチャーします。

取材を終えて 同じ「京都」と「女性」をキーワードにした対談でも、まるで違う内容になった4組の対談。異なる経歴を持つからこその質問もあれば、共通点が見つかる場面もありましたね。会話はどのように転がるかわからないもの。対談してくれた皆さんも、話の意外な広がりを楽しんでいました。

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