1面で触れたように、睡眠は疲れを取って、翌日元気に過ごすために不可欠。ですが、起床時、疲れが取れていないと感じることもありますよね。
実は睡眠のことだけを考えていても、良い眠りにはつながらないそう。
「疲労の回復をより意識するなら、良い睡眠を取るためにできることを実践しましょう。規則正しい生活を送り、長すぎる昼寝をしない、日中は活動的に過ごすなど。朝起きてから寝るまで、一日中いい眠りのためにできることがたくさんあるんです」と齋藤さん。
小山さんも良い眠りに必要なことの一つに規則正しい生活をあげてくれました。
「起きたら部屋を明るくして、『朝だよ』という光の信号を脳に送ります。そして30分以内に朝食をとり、できれば排便も。こうして体の中を活動させます。朝から活動するリズムができてくると、活動量が上がり、適当な時間が来れば活動量が下がります。つまり、夜、眠りに入りやすくなるのです」
夜の過ごし方について、漆葉さんは「夕方から夜の早い時間帯に運動を。ストレッチのような少し汗ばむ程度のもので十分です。お風呂はぬるめのお湯で、ゆっくり、体の芯から温めましょう。人は体温が下がるときに深く眠れるので、ここで少し体温を上げると良いのです。ちなみにシャワーはお湯が体にあたることが刺激となって目が覚めてしまいます」
寝るときには、照明にも気を付けてほしいと小山さん。
「不安に感じないのであれば消灯を。目に光が入ると目が覚めてしまうので、天井の照明の豆球をつけたまま寝るのはあまりよくありません。どうしてもというときは、足元に照明を配置するなど工夫して。あかりの色は電球色など暖色系を」
寝心地のよい寝具で、適度な寝返りを
良い眠りのための工夫をした後に気になるのが睡眠中のこと。例えば、寝返り。何度も繰り返すと熟睡できていない気がしますが、この疑問については、3人全員が「眠っている間に動くことは自然なこと」と話します。齋藤さんは、「人は平均して一晩に20~30回の寝返りを打つといわれています。そうでないと起きたときに体が痛むこともあり、疲れが取れません」
良い寝返りと関係が深いのが布団、特に敷き布団だとか。
「体が沈み込むほどやわらかい敷き布団は、寝返りが打ちにくいので注意を。もし動くことで疲れを感じているなら、汗を吸わない布団のため、蒸れて不快なのかもしれません」
寝るときの姿勢にも、寝具は関わっていると齋藤さんは続けます。
「寝ているときの正しい姿勢は、あおむけでも横向きでも、まっすぐに立った姿勢でそのまま横になっている状態がいいといわれます。体に負担が少なく、寝返りが打ちやすいのです。あおむけで眠れなかった人が、枕を変えるとその姿勢で眠れるようになったという例もあります。つまりその体勢で眠れないのは、しんどいから。それを引き起こしているのが寝具ということがあるのです」
「午後10時~午前2時は睡眠のゴールデンタイム、この時間に眠ると肌にいい」と聞いたことはありませんか。
これには、3人とも「睡眠中に細胞の修復をする成長ホルモンが分泌されることから、そんなふうにいわれていたのですが、時間は決まっていない」と回答。
「成長ホルモンが分泌されるのは時間ではなく、眠りの前半。深く眠っている状態で、このとき成長ホルモンがまとまって分泌されます」(小山さん)
“深い眠り”については齋藤さんが教えてくれました。
「午前3時を過ぎると深い眠りにつきにくくなります。個人差はありますが、この時間は寝ておいた方がいいという〝コアタイム〟が午前0時~3時。ですから、午前3時までに睡眠の前半を迎えて、成長ホルモンをきちんと分泌したほうが肌にもいいかもしれません」
せっかく寝る前に念入りに肌のケアをしたのなら、成長ホルモンが出るタイミングも逃したくないですね。
「睡眠時間が足りないと太ります」と話すのは漆葉さん。
その理由を解説してくれたのは小山さんです。
「これにはグレリンとレプチンというホルモンの分泌が関係しています。睡眠不足になると、摂食を促進し、脂肪を蓄えるグレリンの分泌が増えます。逆に、食欲を抑えるレプチンの分泌は減少。脂肪を蓄えようとしてエネルギー消費を抑制しながら、どんどん食べてしまうことになります。せっかく日中に食事に気を使ったり、運動をしたりしても睡眠不足の状態では、思ったほどの減量効果は得られないかもしれません」
さらに、齋藤さんは「睡眠不足は成長ホルモンや血糖値の調整をしているコルチゾールの分泌も減ります。これらは脂肪を燃焼させる働きも担っていますので、脂肪を蓄える結果になりかねません」。
つまり十分な睡眠時間は、ダイエットの成功にも関わるということ。眠りがダイエットをサポートしてくれるのです。
試験前日、徹夜で勉強。ぼーっとした頭で答案用紙に向かった経験があるという人も多いのでは。
「脳の疲れは眠らなければ取れません。脳が疲れた状態で頭をフル回転させるなんてできませんよね」(齋藤さん)
小山さんは、「睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があって、記憶は両方と関わりがあります。寝る前に学習して記憶したことは主にノンレム睡眠中に脳で定着されるという説があります。ちなみに、忘れたいようなことはレム睡眠中に記憶定着が抑制されるといわれているのですよ」と話します。つまり、寝ないと必要なことが覚えられず、不必要なことは忘れられないのだそう。
さらに、「睡眠不足は大脳の機能を低下させます。大脳は認知実行機能、論理的思考、記憶や学習などをつかさどっています。また大脳は動機づけややる気にもかかわっていますから、睡眠時間を削って勉強やスポーツの練習というのは良い結果につながらないでしょう」と小山さん。
漆葉さんは、「睡眠不足が続くと、自分が睡眠不足だと分からなくなることがあります。睡眠不足が4、5日続くと徹夜したのと同じくらいのレベルに、認知能力は落ちています。ところが、ずっとその状態が続くと、眠気に鈍感になり、自分が眠いということが分からなくなるのです。そうなると、テストを受けても間違いがどんどん増えるでしょう」。
せっかく勉強したなら、きちんと寝ることもスケジュールに組み込みたいもの。子どもと一緒に一日の過ごし方を見直してみては。
睡眠障害の臨床を研究。「寝つきが悪い、昼間に眠くなる、寝ている間に足がぴくぴく動くなどの睡眠に関わる症状は、生活リズムや睡眠不足が原因の場合があります。ただ、病気の可能性もあるので、気になることは医師に相談を」
睡眠環境学や時間生物学などが専門。「睡眠には量のほか、タイミングが大事。体温や自律神経の働きによって、寝るのに良い、起きるのに良いタイミングがあるのです。これと実際の睡眠がかみ合っていることも大切です」
睡眠改善インストラクターの立場から、正しい睡眠の取り方をアドバイス。「寝る2時間前までに食事や飲酒、入浴を済ませて、照明を抑えめに。眠たくなってから布団に入るのも良い睡眠のコツです」