「コンビニエンスストアで、おつりをもらうときなど、『あ、黒いから見られているかも』って、気になります(笑)」
「原田造園」の甲斐さんの手のこの黒い汚れの正体は“松やに”。甲斐さんは、庭や木々の手入れを行う造園士です。これから冬にかけて松を手入れする機会が多くなると、ますます手が黒くなることが増えるのだとか。
竹垣を結ぶ黒い“染縄”もくせもの。こちらの染料もせっけんでは落ちにくく、手が黒いまま、何日も過ごすのだそう。
そんな苦労もありますが、仕事に面白みが増していると話します。京都へ来てから始めた茶道の影響なども受けながら、常に自分の造りたい庭をイメージするように心掛けていると甲斐さん。
「試行錯誤の段階ですが、庭から町の雰囲気をよくしていきたいと思っています」
手袋が仕事の相棒という田中さんの取材に訪れたのは「大垣書店烏丸三条店」。そう、田中さんは書店員。こちらのコミックコーナーを担当しています。
手袋をはめて作業をするのは、開店の2~3時間前。台車に山積みとなったコミックをいかに素早く売り場に並べていくか―。そうした“時間との闘い”のなかで作業をしていると、紙で手を切るのは日常茶飯事。それをガードするのが手袋です。早くて2週間で穴が開いてしまうとは、その仕事の過酷さを物語っていますね。
もう一つのパートナーのはさみは、常時、ポケットに。商品にかかっているひもやビニールのカバーをこれでカット。スムーズに作業を進めるための必需品です。
井上さんは約40年前、スイスでチョコレートやあめ細工の製法を学んだのち、33年前に洋菓子店「グラース・セゾン」をオープンしました。以来、パティシエとして数えきれないほどのケーキや焼き菓子、チョコレートを作り続けてきました。
その井上さんの仕事と腕の長さや太さはどのような関係が?
「例えばバターケーキを焼く場合、大きなボウルに6kgほどの小麦粉を入れ、たっぷりの砂糖とバターを入れて、しっかりと右腕で混ぜます。だからかしら、右腕のほうが左腕より少し長いし、太いんです。同じようなパティシエも多いんですよ」
クリスマスともなれば、10ℓの生クリームを何度も泡立てたり、大鍋にいっぱいのドライフルーツを刻んだりと、右腕は働きどおし。厨房(ちゅうぼう)には、甘い匂いが漂っていますが、仕事は決して甘くないようです。
仕事に入るときは、濃い味のものや香りが強いものを避けるという櫻井さんはソムリエ。夫がシェフをつとめるイタリアンレストラン「イル チリエージョ」でワインサービスを担当しています。
「テイスティングは毎日行います。体調がよくないとワインの味わいが分からなくなるので日々の健康管理が大切です。また味覚や嗅覚をベストな状態に保っておかないとならないので、ニンニクや激辛料理などは仕事の前には食べません」
あめやコーヒーを口にしないのも同様の理由。繊細な味わいを感じ取るための努力なのですね。
また、化粧品や香水など身につけるものの香りだけではなく、ワインや水のグラスを拭くふきんにも配慮。無香料の洗剤を使い、手洗いをしているそう。
梅田さんの勤務先は京都市営バス梅津営業所。こちらが担当する3、100、201などの系統に乗務する市バスの運転士です。運転席の窓に近い右手が焼けているのも納得。
「午前中から夕方にかけて、3系統のように東西にまっすぐ向かう乗務のときが、特に焼ける気がします。フロントやサイドのガラスは、紫外線カット仕様なのですが」。1面の写真を見ると、右腕にはめている時計の跡もくっきりついていますね。
仕事中にはめているという手袋は、滑り止めとともに、同僚へのマナーとして着用している人が多いそう。
「一台のバスを、乗務交代をしながら数人で使いますから」
それにしても梅田さん、腕だけではなく顔も焼けていますね。やはり運転士には日焼けがつきもの?
「いえ、これは趣味のランニング効果です(笑)」