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科学を知れば、もっと料理上手に

食材を切る、煮る、焼く、味付けをする―。普段何げなくしているこれらの調理。実は科学的根拠があるんです。その理由を知ることで、もっと料理上手になれるかもしれませんよ。

教えてくれたのは

京都女子大学名誉教授、
同学栄養クリニック副クリニック長 木戸詔子さん

栄養学、調理学の理論と実践を研究。「科学の理屈を知れば、調理の手順に納得することも多いはず。手順の意味を理解すると、料理の出来が変わると思います」

おなじみの調理から科学を解説

緑色の葉物をゆでるときは、
たっぷりの熱湯で素早く
正しいホウレンソウのゆで方

短時間で火が通るように、ホウレンソウの根元に十文字の切り込みを入れておく。6〜7倍の量の熱湯に根元から入れ全体を浸して1分。裏返してさらに30秒加熱後、引き上げて冷水にさらす。

料理は、彩りもおいしさのうち。コマツナやホウレンソウなどの葉物野菜は、緑色の色素であるクロロフィルを持っていて、上手にゆでたり炒めたりすると緑色が鮮やかになります。これは、素材に熱を加えることで組織の間の空気が抜けて密着し、中のクロロフィルが見えやすくなるためです。

ところがこのクロロフィルは、加熱し過ぎたり、酸性の成分に反応すると緑褐色から茶褐色へと変化します。こうなっては、おいしそうには感じませんね。

つまり、退色を抑制するには加熱は短時間が鉄則。素早くゆで上げ、冷水にさらして余熱をとります。熱で壊れた組織から有機酸が溶け出しお湯が酸性になることを防いだり、高温を保つため、たっぷりの熱湯を使うことも大切。

「葉の薄いホウレンソウは組織が壊れやすいので、特に“短時間加熱”と“たっぷりの熱湯”を意識しましょう」と木戸さん。

硬い肉をやわらかくするには、
果物や酸性調味料が効果的
肉をやわらかくする方法

パイナップルやキウイといったタンパク質分解酵素を持つ食材をスライスして一緒に漬ける。または酢、酸味のある果汁、みそ、しょうゆ、酒、ワインなどの酸性調味料に漬ける。目安は、塊肉で1〜2日、小さめのブロック肉で2〜3時間、こま切れ肉は数分。

肉の硬さに影響を与えるのがタンパク質。例えば歯ごたえがある牛すじ肉は、結合組織がしっかりとした“肉基質タンパク質”を多く含みます。やわらかくほぐれやすい肉質の鶏肉は、肉基質タンパク質が少なく水溶性の“筋形質タンパク質”が多いのだとか。

硬い肉をやわらかくするための方法は次の通り。

一つ目は、パイナップルやキウイといったタンパク質分解酵素を持つ食材と合わせること。二つ目は、酢やかんきつ類、酒やワインのような酸性調味料に漬けること。肉がもともと持っているタンパク質分解酵素が活性化し、やわらかくなるのです。

三つ目の方法は、長時間、煮ること。これは、主に肉基質タンパク質を多く含む牛すじ肉に効果的な調理法です。このタンパク質はコラーゲンを豊富に含んでいます。長時間煮込んで水と熱が加わり分解されたコラーゲンは、分子が小さいゼラチンやアミノ酸に。これがやわらかく、うま味のある肉に仕上がる理屈です。

「漬けこんだり煮込んだりといった手間はかかりますが、“牛すじの煮込み”など、硬い肉質だからこそ楽しめる料理もあるので挑戦してみてください」(木戸さん)

煮魚をきれいに仕上げるには、
少なめの煮汁で短時間加熱
煮崩れしない煮魚のコツ

魚が3分の1程度隠れる量の煮汁を沸騰させる。重ならないように魚を並べ、煮汁を回しかける。落としぶたをして、身が白く、ふっくらとした時点で火を止めて蒸らす。※煮汁を少なめにすると魚が動かず、煮崩れ防止に

煮魚や焼き魚の失敗例として挙がりやすいのが“身崩れ”。結合組織を作る肉基質タンパク質がほとんどない魚は、筋原繊維タンパク質が6~7割、筋形質タンパク質が2~5割を占めています。

「煮魚の場合、水に溶けない筋原繊維タンパク質は45度くらいの熱で、水溶性の筋形質タンパク質は56度あたりで凝固。加熱で筋原繊維タンパク質が先に収縮し組織が壊れると、筋形質タンパク質が溶け出しやすくなり、煮崩れにつながります」と木戸さん。

この点から煮魚を上手に仕上げるコツを考えると、上記の温度を通過しないよう、沸騰した煮汁に生魚を入れることがポイントに。ただし、加熱しすぎるとタンパク質の凝固が促進され身は硬くなるので注意を。

「魚の皮に切れ目を入れることで、熱による著しい収縮を避け、煮崩れを防ぎます。火が通りやすく味が染みやすいのも利点です」

ここにも科学の理屈あり

  • 食塩でサトイモの粘りを抑制

    サトイモは特有の粘質物が調理や調味の妨げになるので、粘りをおさえる必要があります。そのために重要な働きをするのが食塩。塩水で下ゆでをしたり、調味液で煮ることで、粘質物が食塩により凝固し、粘りを抑制します。

  • アミラーゼの働きで、ヤマイモは生食が可能に

    イモ類に多く含まれるデンプンは、生の状態では消化が悪く、加熱して消化しやすい糊化(こか)デンプンに変化させる必要があります。同じイモ類でも、生食が可能なのがヤマイモ。これは、デンプンを分解する強力なアミラーゼが組織に含まれているためです。すりおろしや短冊切りなど酸素が作用しやすい調理方法であれば、アミラーゼがさらに活発に働き、消化を助けます。

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