2面では、1面で紹介した〝科学〟の実践編。
科学の力がそれぞれのレシピの味を支えています。
レシピ提供:京都女子大学栄養クリニック
調理と盛り付け:クッキングインストラクター・大薮真沙美さん
調理中の色素変化の抑制が必要な素材は、葉物野菜に限ったことではありません。ゴボウ、ジャガイモ、サツマイモ、リンゴ、モモなどを包丁で切ったまま置いておくと、断面が褐色に変化するだけではなく味も悪くなります。これは、食物にフェノール類が含まれているためです。
切ることで組織が破壊されたフェノール類は、酸素に触れ、酵素が作用して茶色のメラニン色素を生成。酸化と呼ばれるこの反応を防ぐには、包丁で切ったらすぐに水にさらすことが重要です。フェノール類も酵素も水溶性。水にさらすと溶け出して酸素との接触がさえぎられ、色素の変化が抑えられます。
さらに抑制させるには加熱が効果的。組織がやわらかくなりフェノール類も酵素も溶け出しやすくなるうえ、酵素が加熱の影響で変性し、作用しなくなるのです。
水にさらして油であげることで色素の変化を抑制するダブル技。野菜の色がきれいに出ています
1面で、酵素に硬い肉をやわらかくする働きがあることを紹介しましたが、塩こうじも酵素の力が活発。こうじ菌が生産する酵素がたくさん含まれています。そのため、肉を塩こうじに漬けておくだけで肉がやわらかくなるのだそう。
塩こうじ菌の働きは、タンパク質の分解だけにとどまりません。糖類、アミノ酸、特にうま味成分のグルタミン酸を作り、乳酸菌の働きによる味も加わり、さらにおいしくなります。乳酸菌や酵母などの微生物の働きで豊富なビタミンも生成され、代謝を促進したり、疲労回復の効果なども期待できるそうですよ。
編集部でこちらの〝塩麹に漬けて焼いた肉〟と〝漬けずに焼いた肉〟を同じ条件で調理して食べ比べ。すると、「塩こうじ漬けの方がやわらかい」の声が圧倒的に多いという結果に!
手前の白っぽい方が塩こうじ漬けにした肉、奥はニンニクとこしょうのみの塩こうじに漬けていない肉
タンパク質は金属と強く結合する性質を持っていますが、タンパク質同士の熱凝固を起こすことで金属との結合が抑えられます。魚を焼くとき、グリルや焼き網を先に熱しますよね。これは、熱した焼き網に魚を乗せた瞬間に、タンパク質同士が熱凝固をしているのです。焼き網に酢を塗ると、酢の持つタンパク質凝固作用の働きが加わり、より効果的です。
身崩れを防ぐには、こんな方法も。
「焼く前に、魚に重さの1~3%の塩をふって15~30分ほど置いておきます。さっと表面を洗ってから水気を取り、加熱を。塩の作用で、筋原繊維タンパク質が変性し、アクトミオシンという分子が大きく、網目状のタンパク質に変化します。いわゆる身がしまった状態になり身崩れを防ぎます」(木戸さん)
サンマは、皮が破れることなくおいしそうな焼き目がついています