10月から登場、〝106万円の壁〟

働いている人、働きたい人の〝壁〟との向き合い方とは

壁を意識して仕事を調整する? それとも制限せずに働く? 読者はどのような働き方をしているのかを紹介。専門家からは、壁と向き合っていくポイントをアドバイスしてもらいました。

目先の損得だけではなく、メリットや将来にも目を向けて

ファイナンシャルプランナーの八束和音さんには、106万円の壁による家計への影響を聞きました。

「手取り収入が大きく変わるのは、106万〜130万円未満の範囲で働いている人。新たな制度の適用対象となった場合、10月からは社会保険料が差し引かれます(左表参照)。そのため、今よりも手取り収入は少なくなるでしょう」

場合によっては、103万円の壁に合わせて働くより、手取り収入が下回ってしまうケースもあるそう。

「他にも注意したいのが、配偶者の勤務先から支給される『家族手当』。この基準は国の制度と連動していることが多いので、改訂による変更がないか確認しておきましょう」

長期的なライフプランを考えておくことも大切

「手元に入ってくるお金がマイナスになっても、社会保険加入にはプラス面があります」と八束さん。

例えば、勤務先の厚生年金に加入することで、将来の年金受取額が増加。健康保険料を自己負担することで、出産手当金や傷病手当金といった休業中の給与を補償する給付が受けられるそう。

「一時的には損をすることになりますが、キャリアアップにつながったり、もしものときの備えになったり。目先の金銭的な損得だけにとらわれず、さまざまな視点から見ていくことも大切です」

その視点の一つとして、自分や家族の長期的なライフプランを考えておくのもおすすめとのこと。

「どんな暮らしをしたいかが見えてくれば、どのタイミングで、どれくらいお金がいるか、どのような働き方が合っているかが見えやすくなります。そのうえで、壁の範囲内で働くなら、節約の工夫などで細かく家計管理をして、手元のお金を効率よく確保してください。時間に余裕やゆとりができた分を、生活の質を高めるために使ってもいいでしょう。

また、支出が多くなる時期を見据えて、一時的に手取りは減っても制限を設けず働くという選択肢も考えられます」

働き方を考えることは、自分や家族の将来を改めて見つめ直すきっかけにもなるんですね。

〝106万円の壁〟の適用対象となった場合 手取り収入はどう変わる?

現在
引かれるもの
  • ・雇用保険料
  • ・所得税
  • ・住民税
今年10月から
引かれるもの
  • ・雇用保険料
  • ・所得税
  • ・住民税

・社会保険料
 健康保険料
 厚生年金保険料
 介護保険料
 (※40〜65歳未満)

専門家の意見を参考に、
編集部が作成
※税金・社会保険料は、配偶者の収入や自分が住んでいる地域などによって異なります
ファイナンシャルプランナー・
八束和音さん

「壁というとネガティブに思われがちですが、自分で税金や保険料が払えるだけの力がついたということ。壁は成長の目安であり、新たな世界に飛び込む〝ジャンプ台〟とも言えますね」

  • ▶収入を考えながら、仕事が暇なときは早退したり、休みを取ったり。特に年末が忙しく最後に調整ができないので、日々気にしながら働いています(FM/45歳)
    ▶夫の扶養から外れないよう、週3回、時短で働くようにしています。そうすると、時給の高い仕事になかなか就けないのが現状です(りんご/39歳)

  • ▶産休・育休からの復職後は、壁のことを考えてパートタイムへの転向も考えましたが、業務が増えて言い出せなくなりました。子育てとの両立は大変ですが、年金を払うことは子どもの将来の負担が減ることにもつながるので、このまま頑張って働こうと思います(こねこのママ/32歳)
    ▶末っ子が中学生になったときから、103万円の壁を越えて働くようになりました。仕事の幅を広げたいと思っていたので、今は年収や時間を気にせず、思いきり働いてます(KF/54歳)

〝壁〟を目標へのステップと考え、計画的に、かつ臨機応変に

求職中や就労中の女性は、106万円の壁をどう受け止めているのでしょう。

「相談では、“やりがい重視派”と“見直し検討派”に大別されます」。そう話すのは、働きたい女性の就労を支援する「京都ジョブパーク マザーズジョブカフェ」で、キャリアカウンセラーを勤める中井三嘉さんです。

「やりがい重視派では、『今の仕事が気に入っている』『キャリアが積める』『長い目で見るとプラス面もある』などの意見がみられます。ただ、他の職場仲間が106万円以内に制限した場合、今の仕事の配分がどう変わるか、不安に思っている人もいました。

見直し検討派は、106万円未満に調整しようと思いながらも、この機会に将来を考えて壁にとらわれない働き方をしたいという気持ちも芽生え、その間で気持ちが揺れているように感じます」

キャリアチェンジという選択肢も

女性が働き方を選択するポイントは、「周囲のサポート体制と、家族や生活とのバランス」と言う中井さん。

「子育てを手伝ってくれる祖父母などがいる人は、仕事を制限せず、フルタイム勤務や正社員を目指す傾向に。家庭と仕事の両立に難しさを感じている人は、生活や自分の気持ちとのバランスを取るため、制度に準じた働き方をしやすい職場を選ぶケースが多くみられます」

生活環境の変化や自分のスキルなどに応じて変わっていくとも話します。

「第1子を出産したときはフルタイムで勤務し、第2子出産後は2人の子育てのため、壁の枠内で働ける職場に転職した人も。正社員を目標に、壁を越えない働き方からスタートして、自分の能力や子どもの成長に合わせながら一つ一つの壁を越えていこうとする人もいます」

状況に応じて臨機応変に、そして計画的に働き方をチェンジしているのですね。

「将来の目標を設定し、今の状況に合った働き方をその都度考えて、環境を変えていくのも選択肢の一つです。それぞれの壁を、自分が望む仕事量の目安や、目標をクリアしていくための段階と考えると、仕事の選び方や働く意識も変わってくると思います」

京都ジョブパーク マザーズジョブカフェの
キャリアカウンセラー・中井三嘉さん

「アルバイトでもパートでも、経験してきた仕事の履歴は新しいステップを踏み出すための強み。壁を越えても越えなくても、時間内で精いっぱい働くことで職歴がより豊かになり、キャリアアップや成長につながるのではないでしょうか」

このページのトップへ