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教授の研究、分かりやす〜く教えてください!

専門的で難しいイメージを抱きがちな、大学教授の研究内容。知らない言葉が並び、どんな研究なのかさっぱり…、なんてことが多いかもしれません。そこで、今回は取り組んでいるテーマを分かりやすく説明してもらいました。一見縁遠いような学問と、日常との関わりも見えてきましたよ。

生物個体相互の交信(コミュニケーション)、とくに化学交信(ケミカルコミュニケーション)を指標にした、 生物種間および種内個体間の相互作用の解明

京都工芸繊維大学 生物資源フィールド 科学研究部門
教授 秋野順治さん

聞き慣れない言葉がずらりと並ぶ、京都工芸繊維大学生物資源フィールド科学研究部門の教授・秋野順治(としはる)さんの研究。

「ちょっと分かりづらいですよね(笑)。とても身近な、虫を扱っているんですよ」

話は虫から、私たちの生活を支える農業へと発展していきます。

「〝生物個体相互の交信〟は、虫同士のコミュニケーションを指しています。虫は体の表面にまとった化学物質で交流します。これが〝化学交信〟です」

虫の表面は、ツヤツヤしているイメージがあります。

「そのテカリが化学物質です。匂いや触り心地を変え、意思や情報を発信します。やりとりをするのは種内個体間、つまり同じ種類の虫同士だけではありません。生物種間、要は違う種類の虫の間でも、化学物質で交流が行われます」

秋野さんは化学物質での交流に焦点を当て、同じ種類の虫同士、または違う種類の虫同士が、お互いにどのような影響を与えているかを探っています。その中で力を入れているのが、アリの研究。

「アリは親子の結束が強く、家族以外の虫は土の中の巣に入れません。ところが、巣は住みやすく快適なので、コオロギやチョウの幼虫のように工夫して入り込むつわものもいるんです」

こうした虫とアリも、化学物質を使って交流するのでしょうか。

「巣に入り込む虫は、アリと同じような化学物質を出し、家族になりすますんです。その代わりに、甘い化学物質を出してアリに与える虫もいます。ギブ・アンド・テークが成り立っていますね」

ここで、虫と農業の結びつきが話題に。秋野さんの研究を応用すれば、化学物質を使って虫の行動を誘導できます。

「農家にとって、アリは害虫となるイモムシなどを食べてくれる存在。作物の花粉を運んで受粉を助ける虫もいます。農作物の栽培を助けるよう、虫を導けるでしょう」

社会行動を支える心理的メカニズムの解明

同志社女子大学
生活科学部 人間生活学科
教授 諸井克英さん

〝社会行動〟と聞き、仕事をする、選挙へ行くなど、社会人としての行動が思い浮かんだ記者。

「実は、もっと幅広い意味を持っています。暮らしの中で起きる、さまざまな行動をそう呼んでいるんですよ」とは、社会心理学が専門の同志社女子大学生活科学部人間生活学科教授・諸井克英さん。食事をしたり、出かけることも〝社会行動〟なんですね。研究しているのは社会行動の裏にある心の動きなのだとか。

諸井さんが特に関心があるのが、〝歌〟にまつわる二つの社会行動。

「まずは〝歌を聞く〟という行動を考えてみましょう。人がある特定の歌を好きになって聞く背景にある、心のメカニズムを読み解きます。

1977年に発表された石川さゆりさんの『津軽海峡・冬景色』では、北海道から上京した人々が故郷に帰る様子が歌われています。曲は大ヒット。その理由にも、〝聞く〟という社会行動を支える心理的メカニズムがあります。当時、都会に多くいた地方出身者が故郷を思い、歌詞に共感したんです」

次は〝歌を作る〟という社会行動について。

「1960~1970年代の恋愛ソングは、男性から女性にアプローチをする歌詞が、1980年代以降は自分から告白するような、能動的な女性を歌った曲が目立ちます。そこには、若者の気持ちを代弁し世の中の風潮を表現したいという、作り手の心理的メカニズムが働いています」

二つの例に共通するのは、時代に対応していること。

「歌には時代ごとの人々の心が映し出されます。親世代、子ども世代など、違う年代の人の心が読める、これが歌のおもしろさなんです」

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