工事をしていると思ったらホテルがつくられていたり、住宅地にゲストハウスの看板を発見したり。道を歩くとたびたび出合う新しい宿泊施設。随分増えているなと思っている人も多いかもしれませんね。ホテルや旅館、ゲストハウスと形態はさまざまですが、増加の背景にはどのような事情があるのでしょうか。その理由を探ってみましたよ。
京都府の統計によると、京都市内のホテル、旅館、ゲストハウスなどの簡易宿所の合計施設数は、2011年は878軒、2014年は1002軒。3年間で100軒以上の施設が新たにつくられています。
「宿泊施設が増加したのは、この約5年間で外国人観光客が多く京都を訪れるようになったため。円安が進み、訪問しやすくなったことが理由として挙げられます」とは、立命館大学経営学部教授の石﨑祥之さん。
「増加は東京オリンピックが行われる2020年までは続く見込みですが、旅先として人気の京都では、それ以降も観光客が急激に減ることはないと考えられています」
新たな宿泊施設は大きく二極化していると石﨑さんは話します。
「外資系企業による高級指向のホテルは、タクシーで来ることを前提に、駅から距離のある閑静な場所に建設される傾向がありますね。もう一つはゲストハウスのような、気軽に利用できる宿。アクセスの良い場所に集中しています」
ホテルやゲストハウスに比べ旅館の開業は目立っていませんが、これまでとは違う変化もあるそう。「各部屋にシャワールームを設けたり、海外旅行サイトで情報発信をするなど、海外旅行客向けの取り組みを行う旅館が増えています」
外国人をターゲットにする旅館も出てきているんですね。
では、なぜ京都が旅先に選ばれているのでしょうか。
「京都は観光資源が豊富。それに加え、上質な京料理や美しい着物といった食文化、和装文化が発展しています」とは、京都市産業観光局観光MICE推進室宿泊環境整備課長の山口薫さん。
京都市の2015年の宿泊者数は過去最高となる1362万人。そのうち外国人は316万人と、前年より73%アップしています。
「京都の文化に多くの人が引かれているといえそうですね。観光客からは安らぎや感動を覚えるような旅行がしたいという声をよく聞きます」
住民の“おもてなし”の姿勢もポイントと、山口さんは指摘します。
「外国語が話せる店員がいたりと、外国人を受け入れる体制が整えられてきています。京都市でも、語学力とマナーを兼ね備えた運転手が乗るタクシーを『フォーリンフレンドタクシー』として認定。京都は快適に滞在できる仕組みがあるという情報が、観光客にも浸透しているのでは」
「宿泊施設の中には、カフェやバーが併設されているところも。こういった場を利用することで、国際交流が身近なものになるという利点があります。また、ギャラリースペースがある施設では、気軽にアートに触れられるのがメリットです」(石﨑さん)
宿泊施設の増加に伴い、観光客数の伸びも見込めます。
「すると、観光客の需要に応えるため路線バスも増便します。これは住民にとってもプラスになりますよね」
経済発展にも影響があるとのこと。「雇用や消費額が増え、京都の経済発展につながります。特色のある個人店もその一翼を担う存在。多くの人が足を運ぶ旅の目的地となって個人店が活気づけば、京都全体の勢いが増すかと思います」
観光都市として世界中から人気を集める京都。魅力を高めるため、地元住民は何ができるのか、山口さんに尋ねました。
「観光客に地域の文化を知ってもらうことが大事です。地蔵盆や祭りなどの行事を体験してもらう機会をつくれば、京都の良さがさらに伝わると思います」
山口さんが気を付けてほしいというのが、観光客とのトラブルです。
「民泊やゲストハウスの利用者がゴミ捨てのルールを守らない、夜中に騒ぐといった苦情が住民から寄せられる場合があります。事前に対処法の取り決めをしておくといいかもしれません」
道を教えるといった身近なやりとりも大切だといいます。