ウナギの寝床状の敷地、玄関から裏庭へと伸びる通り庭、頭上に重厚な梁(はり)が渡る吹き抜け。昔ながらの京町家と思いきや、玄関には複数の表札や収納ボックスが…。
「ここは築90年以上の京町家をリノベーションしたシェアハウスなんです」と、同物件を手がけた「八清(はちせ)」の高橋宏太さん。シェアハウスとは、1軒の建物を複数の入居者が共有(シェア)しながら暮らすスタイルのこと。
約100坪(330平方メートル)の敷地は、母屋・蔵・坪庭・裏庭などで構成されていたそう。
「このような大型の町家の場合、個人の住宅には広すぎたり、改修や維持管理の費用がかかりがち。複数の方が暮らすことで広さが有効に生かされ、賃料収入によってコスト軽減にもつながります」
シェアハウスとして再生された町家は、蔵や坪庭、和室の一部は当時の面影を残しながら共有スペースとして活用。一方、入居者が集うダイニングキッチンは明るく開放感あふれる欧米風の空間にリニューアル。古きよき風情に現代的な機能性や感性が加わり、居心地よく、オシャレな印象です。
東京から移住してきた米本和弘さんは「 “京都ならでは”“ここならでは”の空間は、他には替え難い魅力」と話します。
現在、ここには男女8人が入居。
「みんな一緒にご飯を食べたり、作ったり。時にはパソコンや本を蔵に持ち込んで、1人静かに過ごすことも。毎日が楽しく、充実しています」(米本さん)
「京町家は年々減少しています。この建物には、京都の暮らしの土台となってきた町家の文化を、将来に継承していきたいという思いも込めているんです」(高橋さん)
暮らす人が、自分に合った住まいをつくり、選べるよう、家づくりのプロセスも変化しています。その仕組みや作り手にも目を向けると、選択肢がさらに広がりそうです。
「近年、洛西ニュータウンでは入居者の減少や高齢化が進行。若い世代に魅力ある住まいをつくることが課題になっています」と、同団地を管理する「UR都市機構」の関真司さん。女性の視点や若い感性を取り入れるため発足したのが、同機構と京都女子大学家政学部生活造形学科による「京都女子大学×UR洛西NTリノベーションプロジェクト」。改修プランを同大学の学生が提案し、昨年、新たに4種類のタイプの住戸が誕生しました。
同学科の4回生、黒瀬智奈美さんと小倉綾乃さんが提案したのは「整える暮らし」がコンセプト。
「子育て中の世帯を想定して収納スペースを増やし、使いやすいように動線にも配慮しました」「完成したときはイメージどおりで、テンションがすごく上がりました!」
笑顔で話す2人の様子に、同学科の准教授・井上えり子さんは「ものづくりの大変さや楽しさに触れ、学生自身もぐんと成長していきました」とのこと。
「入居した方からは『住みやすい』と好評で、団地内からも『住み替えたい』という声や、実際に子育て世帯が引っ越してきたケースもあるんですよ」(関さん)
団地に新たな魅力が生まれ、街もいきいきと変化していきそうですね。
集合住宅は、完成した住宅を購入するもの─。これまでの常識が変わるのが「コーポラティブハウス」というスタイルです。
「家の購入を考えている人が集まり、自分たちで土地を選び購入して、各自のこだわりを反映した住まいをつくっていく。いわば、注文住宅の集合住宅版といえます」
そう話すのは、右京区宇多野のコーポラティブハウスを企画・コーディネートした「キューブ」の代表取締役・天宅毅(あまやけたけし)さん。
「自由度の高さだけではなく、入居者が直接土地購入や発注を行うことでコストの透明化や削減などのメリットが。完成までの過程で、入居者それぞれが意見や要望を出し、全員で話し合っていくことで、入居後の円滑なコミュニティーづくりも期待できます」
壁一面の本棚、外とつながる土間キッチンなど、入居者それぞれが思いどおりの空間を実現し、「ゆるやかなつながりも気に入っています」とのことです。