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奥深き、竹の世界

まっすぐ空へ伸びる竹。風に揺れる葉のサラサラという音も、さわやかな色も、残暑のころのひと時の清涼剤。京都には竹林があちこちにあり、観光名所になっている所もありますね。今回取り上げるのは、そんな京都の竹。さまざまな目線で〝竹の世界〟をのぞいてみましょう。

“見る楽しさ”のために

散歩道の竹垣にこもった“地元愛”

道の両側に美しく連なる「竹穂垣」は、「竹の径」で一番長い距離で使われている竹垣です

向日市北西部の竹林にある「竹の径(みち)」。散歩道にもなっている市民の憩いの場です。

「以前は、放置された竹林や不法投棄が問題となっていました。そこで2000年から、増え過ぎた竹の伐採などを始め、竹の径の整備を行っています」と話すのは、向日市建設産業部産業振興課商工観光係・係長の福田武文さん。

ここを、より風情ある道にしているのは竹林と道路の境にある竹垣。手がけているのは「向日市竹産業振興協議会」の皆さんです。

「毎年少しずつ整備してきました。2004年に完成してからも、傷んだ部分を修繕したり、新しく設置し直したりしています」と同協議会の会長・田中益一さん。

「竹の径」は全長1.8km。竹垣は現在8種類あり、なかには「古墳垣」や「寺戸垣」といった、地域の特徴や地名が名前になっているものも。

「道の形や場所の雰囲気によって、どんな竹垣にするかを考え、親しみのある名前を付けています」(同協議会副会長・三島一郎さん)

道幅の狭い曲がり角なので垣根が厚くならないよう工夫された「深田垣」。竹のしなりを生かした曲線が美しいですね。名前はこの地域に流れる川にちなんでいます

「当初はゴミを片付けながら、竹垣を作っていました。今はゴミを捨てようなんて思わないですよね」と、同協議会に属する竹垣専門店の職人・真下彰宏さん(左)。その右が福田武文さん、田中益一さん、三島一郎さん

知識があれば観賞の時間もさらに充実

「竹の径」のようなスポットを散策するとき、竹の特徴や性質を知っていると、さらにその時間が楽しめるかもしれません。〝竹観賞〟のポイントについて、京都市洛西竹林公園専門員の渡邊政俊さんに聞きました。

マダケ林に立つ渡邊政俊さん。「竹は地下茎を伸ばして繁殖していきます。竹の特徴の一つは、発芽から開花までが長いこと。マダケでは120年といわれていますが、ほかの種類は解明されていません」

「竹は、葉も枝も全部緑色。目に優しく、竹林にいると、すがすがしく感じられます。竹にはたくさんの種類がありますが、日本でよく見るのは太い『モウソウチク』。これは皆さんが食べるタケノコができる竹です。それに、細くて深い緑色の『マダケ』、マダケよりもやや細くて色が淡い『ハチク』を加えた3種が代表的なものですね」

竹の内部は空洞で、いくつもの節があります。スラリとしたスタイルの良さには、その節が大切なのだとか。

「竹は背が高く、風に吹かれてしなります。でもあまり折れません。これは節が支えているから。節の数は40~50ほどありますが、タケノコのときから変わらないんですよ」

竹の面白さはその成長の早さにもあると渡邊さん。

「地表に頭を出してから伸びきるまで、約3カ月。この間は、昼も夜も成長を続けます。マダケが1日で1m21cm、モウソウチクが1m19cm伸びたという、京都大学の故上田弘一郎先生の発表があります。朝、タケノコにかけておいた帽子が、帰りには取れなくなったなんて笑い話があるほどです」

来年、タケノコが竹林に顔を出したら、その伸び具合に注目してみて。

〝放置竹林〟の対策が進行中

竹林が拡大すると環境に悪影響が

上で紹介した「竹の径」の記事の中で、「放置された竹林が問題に」というコメントがありましたね。これが、環境について考えるときに話題になる放置竹林。これはどんな状態のことをいうのでしょう。

「このような放置竹林は、雑草や枯れ竹などで歩くこともできません」と篠崎さん

竹を使った製品のプロデュースも行っている篠崎真さん。「竹検定など放置竹林の問題について知ってもらえるような啓発活動もしています」

「タケノコ畑として使われなくなったり、所有者の変更などの理由で整備されず、うっそうとした状態になっているのが放置竹林です。野生動物の隠れ家になり、農作物を荒らす足場となることを懸念する声もあります」とは、放置竹林対策に関わる団体や大学の研究者らのネットワーク「京都竹カフェ」の幹事・篠崎真さん。

長岡京市で1haあまりの放置竹林の整備や京タケノコの伝統栽培などを行っている「竹の学校」の理事長・稲岡利春さんは、「これは竹の性質によるもの」と教えてくれました。

「竹はとても生命力が強い。放っておくと10~15cmの間隔で生えてきます。そうなると地下茎も密集。その地下茎がどうなるかというと、次は横へと伸びていくのです。1年で3~4m伸びるので、竹林が次第に広がっていくことに。そして、竹はぐんぐん成長して葉で空を覆い、低木を枯らします。ですから適度に伐採して竹林の広がりを抑える必要があるのですよ」

竹の学校のタケノコ畑。「竹の葉はなかなか腐りません。地面に落ちたままにしておくと、雨が地面にしみこまず、土の保水性が落ちてしまうので取り除きます」(右・世良田芳弘さん)。「農家の後継者やボランティアの不足も問題です」(左・稲岡利春さん)

上の写真が放置竹林の様子。篠崎さんによると、全国の竹林の80~90%が、このような状態なのだとか。

「長岡京市では、以前はほとんどの竹林で京タケノコの栽培が行われていたそうですが、現在では放置竹林の割合は50%程度まで増えています」と稲岡さん。「竹の学校」で整備している竹林の3分の1は、タケノコ畑として利用されています。

「竹林を整備し、タケノコを食べて、竹を有効的に活用していけば、放置竹林も減ると思います」(竹の学校理事・世良田芳弘さん)

バイオマスを活用して、土壌改良材に

「竹林は農地の近くにあることも多いので、農村活性にもつながればと思います」と藤井康代さん

放置竹林対策として新たに注目されているのが「バイオマス」。京都学園大学バイオ環境学部食農学科教授の藤井康代さんは、「バイオマスとは、太陽エネルギーによって作り出された、再生可能な資源のこと。竹もその一つです」と話します。

現在亀岡市で進行中のカーボンマイナスプロジェクトでは、竹をバイオマスとして利用しています。

「このプロジェクトは、『地球を冷やし、農村を活性化する』を目的としたもの。その取り組みの中で竹を焼いて炭にし、それを農地に混ぜています。そうすると、土の中に空気の層ができて保水性が改善されるなど、土壌改良効果があります」

でも、竹を燃やすと二酸化炭素が出るのでは?

「植物は成長過程で二酸化炭素を吸っています。もちろん炭を作る際に燃やしますので二酸化炭素は出ますが、それは竹が空気中から吸収したものがもとの場所に戻っただけ。しかも、竹が光合成によって空気から蓄えた炭素は炭の中にたくさん残るんです。つまり、吸った量よりも排出する量が少なくなるため、炭を作ることは空気中の二酸化炭素を減らすことにもなるんです」

放置竹林対策が、農地改良や温暖化防止にもつながっているんですね。

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