結婚するとき、両親から贈り物をもらう人は多いと思います。新しく買ったもの、受け継いでほしいもの、手作りのもの、メッセージ―。どれにもすてきな家族のストーリーがあるようですね。「親から子への贈り物」に関する読者アンケートの中から、5人のすてきなエピソードを紹介します。
一昨年、次男に「結婚したい」と紹介されたのは、「京都から遠く離れた沖縄県在住の女性でした」という、藤川アサミさん。「結納など儀礼的なことは省略して、両家でふたりの新生活をバックアップしてはいかがでしょうか?」と先方の両親に提案しました。しかし、後日「遠方から京都に嫁がせるご両親の身になると、それでは不安に思われるのでは…」、そんな思いに駆られたそう。
そこで、「ご家族を安心させたい」と考えをめぐらせた結果、アコヤ貝の真珠のネックレスを、息子の妻となる人にプレゼントをすることに。というのも、藤川さんは、縁があって自分の娘となった女性には、母として人生の節目に同じものを贈っていたとか。「〝私の娘のように大切にします〟という意味を込めてこの贈り物を選んだ」と言います。
「食事会の席で渡したので、お母さんとお嬢さんが手を取り合って喜んでくださり、『うちの子は幸せだ』なんて言葉もいただきました。息子は私の隣で照れくさそうに『聞いてないよ』とポツリ(笑)」
現在は、夕飯のおかずを届けたり、一緒に買い物に出かけたりと、いい関係が築けているそうですよ。
結婚が決まった際、母の和美さんから贈られたものは、調理道具一式だったという清枝萌子さん。
「母が結婚したとき、新居に行くと義母が調理道具一式とカツオ、コンブを含めた調味料をすべてそろえてくれていたそうです。義母からの『今日からあなたがやりなさい』というメッセージがとてもうれしかったんだとか」。その体験から、和美さんは〝自分の娘が嫁ぐ時も必ず〟と決めていたと言います。
「毎日だしをとり、ゴマをいり、あえ物を用意する…そんなふうに丁寧に作られた母の料理を食べて育ってきました。今、私も母に習い、だしをとり、鍋でお米を炊くことに始まり、なるべく一汁三菜の食事を用意するよう心がけています」
時には、2歳の椋(むく)くんも一緒にキッチンに立ち、「愛情を持って作ること」の大切さを伝えています。「みんなで食べるとおいしいね」と話す椋くん。3代にわたって引き継がれているのは、食の大切だけでなく、家族の温かなだんらんのようです。
上中良子さんの祖父は、「生涯を蚕(かいこ)の研究に捧げ、その道において成果を上げた」人でした。
「退職後も家に若い人たちが訪ねて来ては難しい議論が交わされていたような記憶があります」。実は上中さんも昨年まで大学で教鞭(きょうべん)をとっていた研究者で、さらに長男も研究者の道へ進んだのだとか。
そんな長男が結婚した折、上中さんは祖父の形見である「繭玉」をプレゼントしました。「彼にとっては会ったこともない曽祖父ですが、曽祖父のエピソードを熱心に聞いてきました。ひとつの研究に人生をかけた家族の存在に心を揺さぶられたのか、自分が研究を続けていくことの意味を再確認したようです」
また、「繭玉はあくまで象徴。曽祖父のように地道であること、自分が大切だと思った事柄に対し、喜びを持ってやり遂げることの大切さを伝えたかったんです」。
その後、息子さんは研究職から離れたそうですが、「仕事を持っていても、好きなことは続けられる」と。上中さんが伝えたかったメッセージは、しっかりと受け取られているようです。