1面で紹介したように、日常生活において想像力は大切。
そこで日ごろから想像力にかかわる活動に取り組む3組に育み方などを聞きました。
能役者の味方玄(みかたしずか)さんは、「おぼろ月や散るサクラなど目に見えるものから、恋心や嫉妬など形のないものまで、観客に想像させるのが能の舞台です。演じる側が表現する情景の世界は、見る側の想像力にゆだねられます。観客の想像と実感が結びついたとき、観客の心に舞台への共感が生まれます。つまり、見る側にも、感受性やある程度の人生経験が必要となります」
その想像力を妨げるのが説明。能の舞台が幕や大道具を使わず簡素化された造りになっているのは、こういった理由があるんですね。
一方、舞台上の能役者は想像力を駆使して演じているのかと思いきや、「想像して演じるテクニックも必要ですが、重要なのは演じる人の本質」と味方さん。
「心のありようが、舞台ににじみ出ているといっても過言ではないでしょう。涙をおさえるしぐさでも、つぅーっと頬を伝う涙と、あふれんばかりの涙とでは演じ方が変わると思います」
そんな味方さんが大切にしているのは、移り変わる季節をありのままに感じること。「比叡の山並みの色合い、鴨川の水の音、雨の匂いなど、いつも感動しています」
宝が池公園子どもの楽園の奥にあるプレイパークは、里山を活用した自然あそびの場。幼少期や学童期の子どもにとって、遊びの中で培われる経験の大切さは、よく聞くところですよね。
プレイパークで遊ぶ子どもたちを見てきた小川美知さんは、「子ども時代は自分の中にたくさんの引き出しをつくってほしい。自然の中では、予期せぬ出あいがたくさんあります。楽しいことも、危険なことも多い分、いやが応でも周囲への洞察力が養われます。その発見や経験が、物事の先を想像する力の礎になってくれます」。
いろいろな子どもがプレイパークを訪れるなか、遊ぶ方法を聞かれることもあるのだとか。
「遊び方が決まっているわけではありませんが、慣れていない子にとって、最初は勇気がいるかもしれません。でも、子どもは、新しい世界への好奇心やチャレンジ精神が旺盛。大人は、子どもに小さなきっかけを与え、行動を制限せずに見守るだけでいいんですよ」と野田奏栄さん。
こうした勇気や挑戦した経験が想像力を育てることに、さらには自分で行動する判断力につながっていくのだとか。
「自然や生き物に対する想像力が、大人になってから、きっと役に立つと信じています」(野田さん)
「LOVEおまえのせいだ。」
白地の紙にゴシック体の黒文字で書かれた短い言葉にドキッ。言葉のアーティストとして活動するイチハラヒロコさんが最初に制作した作品です。
愛と笑いをテーマにしたアート作品は、未発表のものを含めると1000点以上。きわどい言葉の数々に実話ではと想像してしまいますが、「フィクションですよ」と笑い返されました。
「年をとっても凝り固まらず、感受性がみずみずしいほど、想像力が発揮されると思っています。作品は、そこから自然と生まれてくるもの」
そう話しながら、持参したノートに取材の様子を書き込んでいきます。イチハラさんがネタ帳と呼ぶこのノートは、見聞きしたことや思ったこと、気になった言葉、スケジュールなど、さまざまなことが書き留められている観察記録のようなもの。作品の原案も書き留められていて、その数、30年間で153冊!
「観察が好き」というイチハラさんは、日常生活のあらゆるシーンで感受性のアンテナを張り巡らせているようです。