日ごろの生活の中で、「京都らしさ」を感じることはありますか? 代々受け継がれてきた風習やしきたり、行事をあらためて考えてみると、現代の生活に役立つ知恵がいっぱい! 田中さんに教えてもらいました。
「伝統的な行事は毎月ありますが、中でも“五節句”は、季節の変わり目にあたる大切な行事です」と田中さん。
古代中国の暦法で「奇数(陽)が重なると陰になる」という考えがあり、それを避けるために、季節の植物から生命力をもらい邪気をはらったことに由来します。日本では、定められた日に宮中で邪気をはらう宴会が催されるようになり、「節句」といわれるようになったそう。左の表に、五節句とそのいわれをまとめました。京都の場合は、現在の暦から約1カ月あとにあたる旧暦の日程で行事をとり行うこともあるようです。
(1ページ目でも紹介したように)「上巳(じょうし)の節句は、おひなさまを飾るための行事ではありません。女の子の成長と幸せを神様にお願いするのが本来の目的。端午(たんご)の節句も、男の子の成長と将来を祈るためのもの。節句というと、飾り物や記念写真への関心が高いのですが、それぞれの節句の持つ意味を、子どもたちにきちんと話してあげてほしいですね」
五節句の最後にあたる9月9日は「重陽(ちょうよう)の節句」です。「重陽の節句のときの植物は “菊”。節句の前の晩に菊の花に真綿を乗せ、次の日の朝、その真綿で体をなでると体の悪いところを真綿が吸い取ってくれるといわれています。真綿には、菊の持つ薬効が染み込んでいるんですね。菊酒や菊を使った料理をいただくのも、体のためなんですよ」
節句の行事に込められた思いに、奥の深さを感じます。まずは9月、いつもはしていない人も、重陽の節句の行事を行ってみませんか。
※1月だけは1日(元旦)を別格扱い
蒸し暑い京都の夏を乗り切る先人の工夫として、「夏のしつらえ」があります。これは、6~9月の3カ月間だけ、ふすまをすだれに替えて風通しをよくしたり、畳に網代(あじろ)を敷いて見た目にも涼しさを感じるように行われる演出のこと。
「そよそよと吹く風を感じたり、風鈴の音色を耳にしたり。中庭に打ち水をすると涼しげですよね。そういった五感で季節を感じられるしつらえは、昔から京都で実践されてきた暮らしの知恵でもあります。季節の花を一輪、飾るだけでもすてきですね」と田中さん。建具の交換ほど大掛かりでなくても、敷物やカーテンを替えるだけで部屋の印象はがらりと変わりますよね。お月見のころにはススキ、秋のコスモスなど、草花は季節の知らせを運んできてくれるよう。五感と季節感で、わが家に合った演出をしてみては。
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「おばんざいが作れる人」「料理が上手な人」「三食きちんとした食事をとっている人」など、京美人は食にもこだわりがある、という読者の声の数々。
「母は『華美はいかん。旬のものを薄味で仕上げて出すのが一番のもてなし』とよく言っていました。私も、その教えを守って、季節のものを大切にいただくようにしています」と田中さん。「土用の丑(うし)の日のウナギは夏場の栄養補給に。“だいこ炊き”は、12月初旬に千本釈迦堂で聖護院大根に梵字(ぼんじ)を書いて炊いたことから健康への願いを込めて。季節の食材には、その時期ならではの意味もあります」
ほかにも、“あらめのたいたん”は、芽が出るように、栄養豊富なアラメを食べて病人が出ないように。また、先日行われた五山の送り火の日の朝にはアラメのゆで汁を玄関にまくと、先祖を送り厄がはらえるといわれているそう。豊富な食材が年中店頭に並ぶ現代だからこそ、季節を考えた食材を日々の食卓に取り入れたいものですね。