地域の伝承を編さんする「宇治民話の会」。「民話の舞台を訪ねると、物語の背景にあるものを感じられます」という代表・阪田憲子さんの話を受け、民話「当尾(とおの)の野仏」の舞台である、木津川市加茂町の当尾を訪ねました。
当尾にある2つの寺院、浄瑠璃寺と岩船寺(がんせんじ)を結ぶ道を、道標に従い、歩きます。大小さまざまな石仏の中でも特に目立つ「笑い仏」は、中央の仏さまの表情がやや悲しげ。傾いているからそう見えるのでしょうか。いえいえ、「隠れ里」の雰囲気をたたえ、すがすがしさと静けさが同居したこの地にいると、どこか“寂しい”という感情が刺激されるよう。伊末吉が感じた望郷の思いが仏さまの笑みに溶け込んだのでしょう。
乙訓地方に伝わる心温まる話を教えてくれたのは、「長岡京市ふるさとガイドの会」の2人。子を思う母ザルの姿がいじらしい「柳谷観音 楊谷寺(ようこくじ)の独鈷水(おこうずい)」の伝説です。
現在も、独鈷水は楊谷寺で大切に管理されており、お堂の前で手を合わせてから水をいただく地元の人の姿も。
「『目の病気を治したい』と遠方から来られる方も目立ちます。真剣にお祈りされている姿に、どの方の願いも観音様にしっかり届けなければ、と思っています」と副住職の日下俊英さん。