「年を取ると時間がたつのが早い」「もう6月!?」なんて口にしたり、耳にすることがありますね。子どものときと比べると、大人になってからは時間が過ぎるのが早いような…。1秒1秒の長さはいつでも変わらないのに、そう感じるのはなぜでしょう。今回はそんな〝大人時間〟のナゾに迫ります。
教えてくれたのは
「大人になると時間がたつのが早いと感じますか?」と読者アンケートで尋ねたところ、97%と、ほとんどの人が「感じる」と回答。
「この傾向は実験でも確かめられています。生まれてから今までの実際の長さと、過去を振り返って心で感じた長さとを比べてどう感じるかを、さまざまな年代で調べた心理学者の実験があります。これによると、20歳ぐらいから『もうそんなにたった』、つまりこれまでの人生を『実際の時間よりも早かった』と感じる人が出てきて、40歳ぐらいからはそう思う人がほとんどになります」と教えてくれたのは、同志社大学心理学部教授の畑敏道さん。
アンケートに答えてくれた読者は30代~70代の43人。7割以上が40歳以上でした。
実際どんなときに「時間がたつのが早い」と感じているのかも、アンケートで質問。「特に予定がなく、ぼーっとして1日を過ごしたとき」(yoshi・64歳)、「テレビドラマなど、毎週見ている番組が始まると、もう1週間たったの?と感じる」(ゆかりんご・41歳)、「クリスマス、お正月、夏休みなどの長期休暇を迎えたとき。以前よりも早く巡ってくる気がする」(れいこ・39歳)、「1日や1週間単位では感じないが、1年は早く感じる。このあいだ年賀状を作ったのに、またすぐ作っている気がする」(エビフライ・43歳)
時間が早く過ぎると感じるといっても、そのスパンは人によって違うようです。
それにしてもなぜ、時間がたつのが早いと感じるのでしょう。畑さんによると、「刺激の量が少ない」「変化が少ない」「覚えていることが少ない」ということが関係しているのだとか。
「認知される変化の数や刺激が多いほど、時間を長く感じます。子どものときは、多くが初めての経験なので何事も新鮮に感じ、それを多くの刺激として受け取ります。大人はすでに経験したことが多く、子どもと同じくらい経験をしても、それらをそれほど新鮮な刺激としては受けとらないのでしょう。また、記憶に残っている出来事が多いほど、時間を長く感じます。年齢とともに記憶力が低下し、刺激になることがあったのに忘れてしまうと、時間を早く感じてしまいます」
読者アンケートでも、時間を早く感じる理由について「毎日同じことの繰り返しだから」(マツイママ・51歳)、「入学式など、自分が主役になる行事がほとんどないからでしょうか」(M・51歳)と分析している人もいました。
このほか、「仕事や家事で時間に追われているからかも」というSKさん(45歳)のように、時間が早く過ぎる理由を、「やらなければならないことが多い」「忙しい」からではないかと考えている人が43人中17人。これには、時間を気にしているかどうかが関わっているそう。
「待ち遠しいと思うことがあると、時間を何度もチェックしたりして、『時間がたつのが遅い』と感じますよね。反対に忙しくて時計を見る暇もないときには、『いつの間にかこんな時間!』と焦ることがあります。つまり時間の経過に注意が向いていないときのほうが、時間が早いと感じます」(畑さん)
影響を及ぼす要因は脳内にもあるのだとか。
「脳の中で合成されるアセチルコリンという神経伝達物質が低下すると、時間を短く感じるという動物実験の結果が出ています。さらに同じく神経伝達物質のドーパミンの量が少なくても同様の結果に。この2つの物質は、人間では40歳ごろから脳内で合成される量が減るといわれていて、このことも時間を早く感じる原因の一つと考えられます」
ほとんどの人が感じる“時間の経過の早さ”。では皆さんは、それを歓迎しているのでしょうか。それとも…。
「毎日を有意義に過ごせている」というMさん(42歳)のように、時間が早く過ぎたと感じることを、“充実”とプラスに感じている人もいれば、「時間をムダにしてしまったよう」(TC・39歳)とマイナスイメージにとらえる人も。時間がいつの間にか過ぎ去ってしまったというのは、確かにちょっと損をした気もしますね。どうしたら充実感に転換できるのでしょう。
「変わり映えのない生活をしていると、同じことの繰り返しですし、いつも顔を合わせている人と似たような話ばかりしてしまいますね。
そこで大切なのが、暮らしに変化をつけること。新しいことを始めるのがおすすめです。新しいことに触れることで、立ち止まって考える機会ができますし、新しい人と付き合うことで刺激を受けることも。新鮮な体験を生活に取り入れることで、何もしないうちに時間がたったと感じることにはならないかもしれません。ただ時間が気にならないほど夢中になると、あっという間に過ぎてしまうかもしれませんが(笑)」(畑さん)