歴史ある寺社の多い京都。その建物を飾る絵画は、寺社が大切に守っている“お宝”です。拝観の目的の一つが絵画鑑賞、というのもいいですね。
「大きなはけのような筆にたっぷりと白い絵の具を含ませてスギの戸板に一気に描いたといわれる“象さん”。間近で見ると、戸板の木肌の色を利用して象の体の線が表現されているのがわかりますよ」と話す養源院副住職・吉水一成さん。
吉水さんが親しみを込めて“象さん”と呼ぶのは、江戸時代初期の画家・俵屋宗達(たわらや・そうたつ)が描いた杉戸絵「白象図」(重要文化財)です。同寺の本堂には、宗達が描いた作品として「白象図」「唐獅子図」「波と麒麟図」の杉戸絵8面、ふすま絵「松図」12面が収められています。
「これらは、扇の絵や経典の下絵にかかわっていた宗達が、本阿弥光悦の紹介で手がけた初めての大作と聞いています。おおらかな線、構図、斬新なデザイン性など、当時も評判になったのではないでしょうか。50年以上、拝観の案内をしていますが、見ていて飽きることはありません」
妙心寺塔頭(たっちゅう)の一つ、妙心寺大法院。客殿を囲むように広がる庭園を眺めながら奥の庫裏(くり)に進むと、その一室に、生き生きと羽ばたく叭叭鳥(ははちょう)の姿が表れます。
「叭叭鳥」とは、中国などに分布するムクドリの一種。モズくらいの大きさで、胸のあたりに白い斑点がある全身黒色の鳥です。キュウカンチョウのように人の言葉をまねることができ、江戸時代には人に飼われていたのだとか。
ふすま8面にわたって、約100羽の黒いこの鳥が自由に飛び交う姿を描いた「叭叭鳥図」。江戸中期の画家で、特に生き物の描写が得意な土方稲嶺(ひじかた・とうれい)が、墨一色で描いた作品です。自由自在の心境を表す禅語「長空任鳥飛(長空鳥飛ぶに任す)」の意味が込められているのだとか。
3月18日(火)まで、「京の冬の旅キャンペーン」で公開中です。
建仁寺の塔頭の中には、絵画などの作品を多く所蔵している寺院があります。建仁寺正伝永源院もその一つ。こちらでも、「京の冬の旅キャンペーン」が開催されています。
同寺が所蔵する作品の中でひときわ注目されているのが、狩野山楽(かのう・さんらく)が描いた「蓮鷺図(れんろず)」という金碧(きんぺき)のふすま絵16面です。
「うちのハスの絵はすごく良いですよ。向かって右側ではつぼみだったものが、正面にいくにつれて花開き、その上をツバメが飛び交う。左側では花はしぼみ、枯れた葉だけに。人の一生や栄枯盛衰を表しているようで、お寺の本堂にぴったりの題材です」
そう話してくれたのは住職の真神仁宏さん。同寺は、織田信長の弟で茶人の織田有楽ゆかりの寺。「有楽がこの部屋の真ん中に座って、蓮鷺図を眺めていた姿が目に浮かびます」