鎌倉時代に創建された南禅寺。その境内の東奥に方丈があり、大方丈と小方丈の二つの建物が広縁づたいに続いています。
大方丈の各部屋には、狩野永徳(かのう・えいとく)をはじめとした桃山時代前期の狩野派絵師が描いたふすま絵が数多く飾られています(注)。
大方丈の前に広がる庭園は通称「虎の子渡しの庭」。その東側にあるのが小方丈です。3つの部屋がつながっていて、そのふすま絵はすべてトラ。ぎょろりとした目、筋骨隆々のトラが次々と姿を現します。全部でふすま絵40面にもなる「群虎図」(重要文化財)は、狩野探幽(たんゆう)の作品と伝えられているとか。竹林を悠然と歩いていたり、2匹でじゃれ合ったり、ユーモラスな表情を見せていたり。400年前に描かれた作品とは思えないくらいの躍動感が感じられます。
(注)デジタル画像をもとに、江戸時代初期から中期の色合いで描画復元された作品には「再現」の掲示あり
寺社が代々所蔵する絵画は、常に劣化や破損などの危険のため、公開できないものが多数あります。
「その危険を回避しつつ、鑑賞の機会を確保するために、複製品を制作しています」とNPO法人京都文化協会の田辺幸次さん。キヤノンと共同で、同協会は「文化財未来継承プロジェクト(通称・綴プロジェクト)」を設立。デジタルカメラで多分割撮影したデータをもとに、パソコン上で高精度な画像処理・色合わせを行い、大判インクジェットプリンターで印刷。その出来上がりは、本物そっくり!
「寺社で、高精細デジタル技術で制作された複製品を展示するということは、文化財の保存と公開の両立を実現します。複製品の役目は、これからも増えていくと思います」
日本の貴重な文化財を保護するため、1889年、東京・京都・奈良に国立博物館の設置が決定。1897年、京都国立博物館の前身である帝国京都博物館が開館しました。同館は、関西の多くの寺社が守り伝えてきた宝物を預かり、安全に保管の上、調査研究し、一般に公開することが「設立以来の使命」なのです。
「平安時代から文化の中心を担ってきた京都では、多くの画家が活躍してきました。桃山時代以降、有名な武家が寺社を守り、競って著名な画家に障壁画を制作させたという歴史も。寺社から寄託されている約1800件のうち、約700件が絵画作品で占められています」
これらの美術品などを公開する新展示館「平成知新館」が、9月13日(土)にオープン予定。より気軽に“寺社の宝”を見ることができそうです。