ホーリー・モーターズ
6月1日(土)から京都シネマで公開
鬼才レオス・カラックスのミステリアスで大胆な問題作
驚くべき作品である。見る者の五感を揺さぶってくるような、映画的至福! 1999年の『ポーラX』以来、長編を発表しなかったレオス・カラックス監督だが、彼の新しい試みは、あらためてその創造力の豊かさを証明したと思う。こんな風変わりな映画は初めて、と感じる人もたぶん多いことだろう。
彼の作品ではおなじみのドニ・ラヴァンが、体を張って11もの役柄を演じ切る。女性ドライバーが操る白いリムジンの中で、化粧をし、衣装を変えては街に飛び出していく謎の男オスカー。富裕な銀行家に始まり、物乞いの女、怪物、十代の娘を持つ父親、殺人者…と、変幻自在だ。彼がその一つ一つの生を、へとへとになるまで演じるのは、いったい何のためか。カラックスが投げ込んでくる変化球に振り回される楽しさ、現実と夢のはざまに導かれたような浮遊感に浸されていく。
哀愁があり、怒りがあり、むごさがあり、ほほ笑ましさもある。世界に存在するこれらを、一人の人間が内包するという意味にもとれる。ラストに出てくるチンパンジーの家族や、リムジン同士の会話も不思議な残響を残す。
カイリー・ミノーグ、エディット・スコブ共演。冒頭、眠りから覚めた男を演じているのは、監督自身である。
(ライター 宮田彩未 )