読者アンケートの結果を見ると、子どもの集中力を切らさないためにしている工夫として、「周りは静かにしておく」(MHB48・43歳)、「一人にさせる」(NT・40歳)という“そっとしておく派”と、「宿題は横について見ている」(TM・42歳)、「声かけをする」(olive・42歳)という“一緒に頑張る派”とがありました。
これはどちらがいいのでしょう? 京都ノートルダム女子大学心理学部心理学科教授の高井直美さんに聞きました。
「“集中している”というのは、何か特定の事柄に注意を持続させていること、あるいは持続して取り組んでいるということです。それがしづらいというのは、『その行為に興味を持てない』『課題がその子どもにとっては難しい』といった原因が考えられます。
そっとしておいたほうがよいか、そばで見てあげたほうがよいか。これは、お子さんの特性によります。普段から気が散りやすい子どもであれば、静かな環境を保ってあげましょう。逆に、誰かと一緒にすることで興味が湧き、取り組めるという子どももいます」
小さな段階をクリア
何か課題に取り組むときは“スモールステップ”で目標を立てると良いのだとか。
「『10分頑張ろう』と時間を区切ったり、『このページまで頑張ろう』と量を区切ったり。『そこまでできたら休憩しよう』『ごほうびにシールをはろう』など、即時にフィードバックできる小さなゴールを設けて取り組むことは効果的です。持続できた達成感や評価された喜びが、自尊心や自信を生み、次のステップに進むやる気をもたらします。成功体験を積むことは、苦手なことに取り組む柔軟性を身に着けることにもつながります」
プレッシャーはNG
「誰でも興味がないことには取り組めません。やり方のヒントを教えたりして理解力を補ったり、個人にあった分量と内容にすることを心がけてください」と高井さん。さらに、関心があることを引き出すことにポイントを置いてとも。
京都ノートルダム女子大学 心理学部心理学科教授・高井直美さん。「集中して勉強したりすると筋肉は緊張した状態に。ときには、おやつを食べたり、適度な運動などで緊張をほぐしてあげてください」
「『ほかの子ができるのだから』というような、プレッシャーを与えるのも良くありません。人には生まれ持った個人差があり、外からの刺激に敏感で、集中しにくい性質の人もいます。でもこれもひとつの個性。ひとつのことに集中しにくい半面、関心が広く、豊かな創造力を育むことにつながる場合も。“集中力がない”と、ネガティブにとらえ過ぎず、お子さんの興味がある分野を伸ばしてあげてください」
京都造形芸術大学にある、3歳から小学校入学までの子どもとお母さんを対象とした教育機関「こども芸術大学」。ここで多くの親子に接してきたのが、同学企画運営室室長・山本洋子さんです。
「子どもは自分が好きなことであれば、夢中になってできます。何度もやっているうちに自信がついて楽しいと感じていくのだと思います。大人が願う“これをしてほしい”ではなくて、興味があることから身につけさせて。たとえば、本を読むことにはあまり集中できないけど、虫捕りは大好きというお子さんなら、虫の図鑑から本に親しんではどうでしょう。身近なことであれば、苦手と思っていることでも集中して楽しめるかもしれません」
気持ちが向くのを待つ余裕も大切
とはいえ、集団生活では、“みんなで一緒にしましょう”という場面も。そんなとき興味が持てず、取り組めないとちょっと心配ですね。
「大人は子どもの小さな感動や発見を見つけ出すお手伝いをすると楽しめます。何が好きか、どうやって伝えるとよいか、子どもの心をよく理解して接してあげてください」とこども芸術大学企画運営室室長の山本洋子さん
「“ほかの何かをしたい”と関心が別のものに向いている幼児に、無理に何かをさせるのは難しいですね。満足すれば、次の行動に気持ちが動くことが多いもの。まずは今したいことをトコトンさせてあげて、お母さんもそれに付き合ってください。あるいは、みんなでやろうとしているその行為が、“難しそう”“理解できない”と感じているのかもしれません。その場合は、プロセスを省略して簡単にできるようにしたり、大人が一緒にしてあげたり、どうしたらその子ができるのか、工夫してください」
集中力と食事にも深いかかわりがありました。京都女子大学副栄養クリニック長の木戸詔子さんによると、ポイントの一つが“朝食”なのだそう。
「起床時は夕食から12時間程度たっていますから、体内にエネルギーはほとんど残っていません。つまり低血糖の状態ですから集中力は期待できないんです。そこで、大切なのが脳にエネルギーを供給する朝食です」
朝食をとることで体温が上がり、脳への血流が増加、集中力アップへとつながります。では、理想的なメニューとは…。
「脳に必要なエネルギーはブドウ糖だけ。ですので、主食として、消化されてブドウ糖に変化するデンプン食品をとることが大事です。ごはんでも食パンでもかまいませんが、特にごはんは腹持ちがいいのでおすすめです。腹持ちがいいということは“エネルギーが持続する=集中力が持続する”ことにもつながります。
副菜には、血液などを作る働きのあるたんぱく質と、たんぱく質の合成を助けるビタミンCを含んだものを。卵やハム、それから緑黄色野菜、新鮮な果物などがいいですね」。いずれも“よくかむ”ことが重要。脳への血流が増えることで集中力アップが期待できるのだとか。
「朝食を気持ちよく食べられる状態にしておくことも大切ですよ。爽快な目覚めができるよう、睡眠を適切にとり、生活リズムを整えておきましょう」
ところで皆さん、こんな経験はありませんか。食後に眠くなったり、ぼんやりしたり…。これって集中力がきれている状態ですよね。
京都女子大学副栄養クリニック長・木戸詔子さん。「ただ食べるだけではなく、楽しく食べられる環境づくりも大切。いやいや食べていると消化吸収も悪くなりますから、集中力にもかかわってくるんですよ」
「確かに食後すぐは、消化のため血液が胃に集まるので、脳に回る血液が少なくなります。食べ物を消化するには少なくとも1時間はかかります。授業が始まる1時間前には食事を終えておきたいですね」