日本酒を造るときにできる副産物のような存在の酒かす。どんな栄養があって、どんなふうに利用できるのでしょう? 「月桂冠総合研究所」で酒かすの研究に携わる、主任研究員の堤浩子さんに教えてもらいました。
日本酒を造るときには、蒸し米、米麹(こめこうじ)、仕込み水、酵母(こうぼ)を大きなタンクやおけに入れ、発酵させて“もろみ”を造ります。このトロトロとしたもろみを搾ってできた液体が日本酒、その残りの固形物が酒かすです。このときの搾り方によって、酒かすの形状が変わるそう。
「圧搾機を使ってできた板状のものが『板かす』、袋詰めにし、重しを乗せたりして搾ったものが『ばらかす』です。これは形状が違うだけで、成分には大差ありませんが、ばらかすのほうがややお酒が残っていて、しっとりしている場合があります」と堤さん。
そのほか、酒かすをタンクに入れて、足で踏むなどして空気を抜いたあと、一定期間熟成させた「踏み込みかす(練りかす)」や吟醸酒を造るときにできる「吟醸かす」というものも。
「踏み込みかすは、白い酒かすとは異なり、みそのような色をしています。奈良漬やかす漬けといった漬物を作るのによく用いられます。吟醸かすは、生産量が少なくあまり出回りませんが、とても香り豊かです」(堤さん)
堤さんによると、酒かすはさまざまな栄養が含まれている食材なのだそう。
「酒かすには日本酒を造る材料に含まれている成分と、それらが発酵していく過程で生まれてくる成分の2種類があります。
前者はビタミンB、たんぱく質、食物繊維、有機酸が主です。発酵過程では、たんぱく質が分解されてペプチドやアミノ酸などができます。特にペプチドは、肝機能をサポートしたり、高血圧を予防するなどの働きがあることが実験で確かめられています。
米に含まれるたんぱく質の一種“レジスタントプロテイン”は、発酵すると数倍に増えますが、これはコレステロールを下げる作用があるといわれています」
さらに、酒かすは悪酔いを防ぐという研究結果もあるのだとか。
「酒かすには食物繊維やたんぱく質が多く含まれていて、胃に粘膜を張ってくれるおかげで、アルコールが体に吸収されるスピードをゆっくりにしてくれるんです」と堤さん。
おつまみに酒かす料理というのは、良い組み合わせなのですね。
そのほか、「酒かすパック」のようにスキンケアでの利用法も。これはアミノ酸が持つ保湿効果を利用したもので、同社の社員にはパックのほか、お風呂で体をマッサージするのに、酒かすを使っている人もいるそうです。
「酒かすを肌につける場合は、まず腕などに少量つけて、体に合うか試してからにしてください」(堤さん)
栄養があるだけではなく、料理に加えてもおいしい酒かす。その理由は?
「酒かすを料理に取り入れると、味に深みが増しておいしくなります。これはペプチドやアミノ酸がコクを生み出すからです」と堤さん。
さらに、食感を良くしたり、保存にも役立つそう。
「肉や魚を酒かすに漬けてから調理すれば、酒かすに含まれる酵素がたんぱく質を分解し、肉や魚をやわらかく、ふっくらさせてくれますし、パンを作るときに加えると、穏やかに発酵がすすみ、もっちりとやさしい甘味が加わります。また、かす漬けなどの保存食に用いられていることからも分かるように、雑菌の増殖を抑え、食材の日持ちが良くなることが知られています」
日々酒かすを研究する堤さんは、おなじみのかす漬けにもひと工夫。
「電子レンジでやわらかくした酒かすに、ホエー(ヨーグルトの上澄み液の乳清)を混ぜて、冷蔵庫で2~3日寝かせて、かす漬けの床として使っています。ヨーグルトのさわやかな香りと酒かすが合うんですよ」
酒かすを一度に使い切れなければ、空気に触れないようにラップで包んで保管を。冷蔵庫で約3カ月、冷凍なら1年ほどは持つそうです。
ただし注意点も。「酒かすもお酒。商品によりますが、7%程度のアルコール分を含んでいます。少量を料理に用いる分には問題ありませんが、よく加熱してください。十分加熱しないで食べる場合は、運転は控えてください。アルコールに弱い方もご注意を」
教えてくれたのは
「月桂冠総合研究所」主任研究員・堤浩子さん
「酒かすにはいろいろな効果があることが実験で確かめられてきていますが、たくさん食べれば効果があるものではありません。食生活に少しずつ、長期間取り入れてみてください」
調味料として、食材として、使い勝手の良い酒かす。酒かすそのものの味を楽しんだり、隠し味として使ったり。素材や調理法を工夫した“酒かす商品”を紹介します。
伏見の名水と京都の酒米で作られた清酒「英勲」のなかでも、量が少なく貴重な純米大吟醸の酒かすを、隠し味にしたぜいたくなカレー。芳醇(ほうじゅん)な香りとうま味が、カレーの辛さをまろやかにしてくれています。
「純米大吟醸 酒かすカレー」(1パック525円)/
齊藤酒造(伏見区横大路三栖山城屋敷町105)
ネコの形が愛らしいクッキーは、大吟醸を熟成させた酒かすを使用。酒かすの香りと味を楽しめる大人のお菓子です。甘さは控えめで程よい塩味もアクセント。チーズにも似た味わいがクセになりそう。
「白猫の酒かすクッキー」(1枚60円)/
HACOBU KITCHEN.(下京区五条高倉南東角)
地域の食材を使いたいという思いから生まれた酒かす入りパン。生地に酒かすを混ぜることでもっちりとした食感に。子どもも食べやすいようにと、酒かすの量は調節されています。
「山食パン」(250円)など、酒かす仕込みのパン各種/
ふしみパン工房くーぺ(伏見区西大黒町1035−23)