昆布、かつお節、干ししいたけ、煮干し。特徴が異なれば、マッチする素材や調理法も違うはず。そこで、各だしに合ったレシピを「天ぷらと和食の店 奇天屋」の店主・髙木正弘さんに教えてもらいました。
※材料は2人分、写真はすべて1人分
料理のおいしさの決め手となる風味豊かなだし。私たちはだしの何をおいしいと感じているのでしょう。京都大学農学研究科で栄養化学を研究している教授の伏木亨(ふしきとおる)さんに聞きました。
「だしがおいしいと感じる理由は2つ。それは味と香りです。その中で、味は“うま味”が中心。実はこのおいしさは、先天的に感じるものなのです。新生児に甘味などいくつかの味を与えて、どんな表情をするかを見る実験が、30年ほど前にイスラエルの研究者によって行われたのですが、そこでもうま味は好ましい味だという結果が出ています」
生まれたときからおいしいと感じるうま味がだしに含まれているのですね。そのうま味には何が含まれているのでしょう。
「主に昆布からはグルタミン酸というアミノ酸が、かつお節からはイノシン酸という核酸が出てきます。これらがうま味の正体。そしてこの2つが一緒になると、うま味はぐんと高まります。合わせだしがよく使われるのはそのためです。昆布とかつお節の合わせだしは、昆布だけのときよりもうま味が7~8倍にアップするんですよ。シイタケや煮干しからも核酸が出ます」
「香りはうま味を強めてくれています。お話しした通り、うま味は先天的においしいと感じるので、だしがきいた料理を初めて食べたときは、まずうま味、つまり“味”をおいしいと感じます。そしてだんだんとそれに付随する素材の香りも一緒に好きになります。そうしているうちに、その香りがすることで、だしをよりおいしいと感じるという良い循環になっているのだと思います。
ただし、うま味と違って香りは経験を通して、好ましいと感じる気持ちが育つものですから、子どものころからニオイに親しんでないとだしを好きになれません。洋風の食事が多くなると、どうしても和のだしを飲む回数が減って、“うま味は感じるけど和風だしのニオイが苦手”という子どもが出てくる可能性があります」
ところで、家庭では手軽な顆粒(かりゅう)だしを使う人も多いと思いますが…。
「だしの原料液を濃縮して水分を飛ばしたものが顆粒だしです。最近では製造技術が良くなり、香りを残したものもできるようになりました。コストや手間を考えれば、普段は顆粒だしでも十分だと思いますよ。でもたまには本格的なだしの深い風味を味わってみてください」
大きな窓とすっきりした和風の外観。中にはL字のカウンターが。実はここ、“だし専門店”。
今年3月にオープンした「だし工房宗達」は、マグロ節と利尻昆布、カツオの本枯節と真昆布、血合い抜きのかつおの本枯節と羅臼昆布、これら3種の組み合わせのだしを販売しています。
だし汁を試飲できると聞き、記者も体験してみました。目の前に小さなカップが運ばれてくると、心地よい香りが鼻をくすぐります。そして口に含んでみると、すっきりとした味わいやコクのあるものなど、風味の違いを実感!
「1分で本格的なだしを取れるように、独自技術で加工した昆布を使っています。家庭で気軽に香り豊かなだしを味わってください」と店長の和田宏さん。
フランス料理店でありながら、和のだしを取り入れている「レストラン田むら」。オーナーシェフ・田村彰吾さんは「フレンチに合わせると、口当たりが軽くなって味わいが優しくなるんです」と、その理由を話します。
写真は、焼きリゾットの上に、甘ダイ、カニを使った濃厚なソース、ネギを重ね、コンソメにかつお昆布だしのスープを注いだ一品。だしの風味が、しっかりとしたフレンチの後味をさっぱりさせてくれます。
そのほか、フォアグラ料理の付け合わせの野菜を炊く際に使ったり、シャーベット状にしたものをサラダに合わせたりと、和のだしがジャンルを超えて活躍中。
「だしを使うことでフレンチに変化が生まれます。サケ節やマグロ節など、風味が異なるだしも試してみたいです」(田村さん)