タケノコが店頭に並ぶと、春の来訪を感じますね。京都は言わずと知れたタケノコの産地。この春は“地元の味”をもっと知って、もっとおいしく味わってみませんか。
「京都とタケノコの関係は古く、1700年代に、日本で初めて育てられたのが長岡京市の寂照院だったといわれています(※)」と話すのは、JA京都中央の道尾利之さん。
平成元年に京のブランド産品にも指定された京タケノコは、色が白く、やわらかいこと、きめ細かな肉質でアクが少ないという特徴があるのだとか。この特徴を生み出すのが、明治時代から始まった“京都式軟化栽培”という育て方です。
収穫が終わる4、5月に日照を考え、竹の上部を切り、肥料やり。8月にも再度、肥料をやり、9月ごろには老竹を間引き、地温の低下を防ぎ、水分を保つために稲わらを竹やぶ全体に敷き詰めます。
そして、10月から11月にかけて、京都式軟化栽培の最大のポイントである、“土入れ作業”を行います。これは、わらの上に3センチほどの粘土質の土を広げる作業。所有している竹やぶの一部の土を掘り、それを広い竹やぶ全体に敷き詰めるのです。
「西京区・長岡京市・向日市・大山崎の京タケノコがおいしいといわれるのは、土が粘土質であることも理由の一つ。粘土は空気が入りにくく、水分を保ってくれるんです。これが、京タケノコの色の白さの秘密なんですよ」(道尾さん)
※編集部注・日本でタケノコ栽培が初めて行われた場所については諸説あります
京タケノコが掘れるのは、3〜5月。この3カ月のために、タケノコ農家は1年を通して竹やぶの手入れを怠りません。そんな農家の一人、野村重治さんを訪ねました。
野村さんは中学生のときからタケノコ掘りを始め、“掘り歴”60年。75歳になる今も現役で、平成20年度には「京都府農の匠」にも選ばれています。このベテランをもってしても、そのシーズンの初掘りは特別なものなのだとか。
「初めに掘ったタケノコが大きいと『今年はええで!』ってうれしくなります。この初掘りの時期はね、ランの一種のエビランが教えてくれるんですよ。うちの庭に植えてあるんですが、葉が出てきたら『もうタケノコが出てるぞ。そろそろ行かな』って。
タケノコを探すのも楽しみ。土がちょっと盛り上がってるところの下にタケノコはいるんです。それを見つけるわけです。これを“さがしもん”って言うんですよ」
今の季節、野村さんは午前5時くらいから仕事をスタート。
「タケノコは夜中に水分を吸収してグッと伸びるんです。みずみずしいタケノコを手に入れるには、朝掘りじゃないと」
丹精込めて育てたタケノコ、味わうのもさぞ楽しみかと思いきや。
「いやー、あんまり食べない(笑)。いつも見てるからかな。食べるより、掘るほうが好きやわ」