わっ、と思ったときにはもう体が倒れて、ズデーン、こけちゃった! 膝をすりむくくらいですめばまだしも、特に高齢者など体の弱い人では骨折といった大きなケガにもつながりかねません。今回は転倒のメカニズムを専門家に取材。こけないための方法と併せて紹介します。
「転倒による骨折は、高齢者において、介護が必要になった要因の第5位に挙げられています(平成19年 厚生労働省調べ)。高齢者はケガの治癒も遅いので、元の運動機能を回復するのは困難なのです。
また体力のある人でも一度転んでしまうと、骨折など大ケガはしなくとも恐怖感のため外出がおっくうになるなどして、結果的に体力が衰えてしまいます。ですから中年くらいの元気なうちから、転倒を未然に防ぐことはとても大切なことなのです」
「転びやすい原因は、現在500もの要因について研究されていますが、大きなものは4つ。
まず最も大きい原因は筋力が低下すること。バランス能力や歩行能力の低下も重要です。また後期高齢者(75歳以上)になれば老化により転びやすくなるので、ご家族や周囲も気をつけて。
ただ、筋力などの体力は個人差も大きいもの。65歳でも体の弱い人もいれば、80歳でもしっかり歩ける人もいますね。
私たちの調査で、そんなに足腰が弱っていないのに転びやすいという人は“デュアルタスク”能力が低下していることが明らかになりました。
デュアルタスク能力とは、2つ以上のことを同時に行う能力のことです。年齢が高くなるほど下がる傾向にあり、筋力やバランス能力より早く衰えやすいものです」
「私たちの日常生活は、ほぼすべてがデュアルタスクです。下のイラストのように、お母さんがさまざまな家事を同時にこなせるのは、頭の中の限られた容量をデュアルタスク能力でコントロールしているからです。
歩くときも同様。目的もなく歩きはしないし、考え事をしながらも、角があれば曲がり、障害物を避けもします。
『水の入ったコップを持ち、こぼさないようにして早く歩く』など複数のことに注意する必要のある検査課題を課すと、転びやすい高齢者はスムーズに歩きにくくなることがわかっています」
「脚を上げる高さは年齢によってあまり違いはありません。街で見てみてください、そんなに脚を高く上げて歩いている人は少ないはずです。
むしろ、何か障害物があるのが目で見えていても、脳がきちんと認識できていないことや、反射神経が鈍くなることのほうが重要でしょう」
「そう言う人も多いのですが、本当に何もないのかは疑問もあります。障害物のない平坦な道でも、声をかけられたり、ふいに注意がそれて転ぶこともあります」