着なくなった服を処分するとき、“もったいないなぁ”と感じたことは、誰にでもあるのでは? 不要な衣類を集め、何かの原料にしたり、必要とする誰かに届けるといった「洋服リサイクル」の取り組みを紹介します。
体に合わなくなったり、汚れたりすりきれたりしてしまった体操服。
これらを捨ててしまわずに、新しい体操服を作る材料として再利用しようという取り組みが、京都や滋賀の小中学校で、いま、少しずつ広がっています。
この仕掛け人となっているのは、小学校での出張授業など、環境問題に関する活動を行う、中京区の岡部達平さん。岡部さんは2008年より、帝人ファイバー、旭化成せんいといったメーカーとともに「体操服、いってらっしゃい、おかえりなさいプロジェクト」を開始。両社がそれぞれ開発した、半永久的にリサイクル可能なポリエステル繊維でできた体操服の採用とリサイクルの推進を、京都・滋賀の学校に呼びかけています。
このプロジェクトの流れは、左のイラストの通り。学校で生徒から回収された使用済みの体操服は、工場でポリエステル繊維に再生され、再び体操服に。
「このリサイクルできる体操服を製造する際に必要なエネルギー消費量や二酸化炭素排出量は、石油から製造し、ごみとして焼却した場合に比べて、大幅に少ないんですよ」と岡部さん。
昨年、中京区の御所南小学校がプロジェクトに賛同し、この「エコ体操服」を全国で初めて採用。その後、京都市内の小中学校にも広がり、滋賀県の小学校でも採用され始めています。
「発足から3年。多くの学校に説明にうかがいましたが、どの学校の先生も真剣に話を聞いてくださいます。PTAの方々が積極的に支持してくださるところもありました。環境活動は、全員一丸となって行動することが大切なので、手ごたえを感じています」と岡部さん。
この春からエコ体操服の採用を決めた、中京区の高倉小学校でも話を聞きました。
「4月からの採用に向け、昨年秋ごろから保護者への周知をしてきました」と、校長の林正幸さん。導入の意義について時間をかけて説明してきたそう。反対はなかったといいます。
「これまでも、牛乳パック回収箱を校内に設置するなど、環境への取り組みはしてきました。今後は、児童にとって、より身近な存在である体操服をエコなものに変え、その仕組みを伝えていくことで、限られた資源を大切にするといった、日々の行動意識に結びつけていければと思います」
一口に「洋服リサイクル」と言っても、その方法はさまざま。そして現在、洋服リサイクルが抱えている問題とは…。繊維リサイクルの専門家に話を聞きました。
「現在、自治体や学校、業者やメーカーなど、さまざまな団体が、不要な衣類を再利用のために集めています」と木村さん。
一般には、それらの再利用方法を総称して「洋服リサイクル」と呼ぶことが多いようですが、厳密に言うと、中古の洋服が洋服の状態のまま再利用される場合はリユース、分解など処理が施され、何か別の材料になる場合がリサイクルです(右表参照)。
ちなみに、上記で紹介した体操服リサイクルは、ケミカルリサイクルに当たります。
「日本中の家庭で不要になる衣料品は、年間約126万t。リユース・リサイクルされるのは、その20%ほどにすぎません」と木村さん。
これは、回収されている服が少ないという意味ではないそう。リサイクル業者に運ばれてくる服はたくさんあるのですが、そのすべてが実際にリユース・リサイクルできるというわけではないというのです。
「汚れが激しい服は、リユースにもリサイクルにも適しません。さらに、リサイクルの場合、いろんな繊維が混ざっていたり、服の表示ラベルがなく、素材が特定できない場合も難しくなります」
また、リユース・リサイクルできる服についても、それらの“行き場”が減りつつあるそうです。
「まずリユースですが、日本では、支援物資や中古の衣料商品として東南アジアへ送っていました。でも、最近はそうした国々の発展に伴い、日本の中古衣類の需要が落ちています。それに、あちらでは冬物は必要ないですよね。別の途上国に届けるという選択肢もありますが、輸送面で採算が取れず、難しい場合も」
ぬいぐるみの中綿や軍手、車の内装材にリサイクルするといった方法は?
「最近は海外製品の価格破壊や車の国内生産台数の低下などで、こうしたリサイクル品の需要が落ちています」
そのため、現在、研究者やメーカーは、新たなリサイクル方法を模索しています。
「繊維廃材で木材の代わりになる新素材を作るなど、さまざまな方法が開発されていますし、こうした動きはファッション業界も注目しています。ただし、現状では、採算が取れず商品化にはいたっていません」
容器包装・家電・食品・自動車などにはリサイクル法ができましたが、繊維リサイクルがそれらに続かないのは、こうしたコスト面の問題によるところが大きいそう。
「不要な衣類をリサイクルにまわすことも大事ですが、現状では、ごみを出さない工夫をすること、そういった教育を子どもたちにしていくことがもっと重要ですね」