京都は全国でもパンの消費量がトップだということ、知っていましたか。そういえば、街の規模に比べてパン屋さんの数が多いような…。そんな中でも、ここ最近誕生した新顔パン屋さんを紹介します。撮影/竹中稔彦/ナリタナオシゲ(サンク、ラブズベーグル)
宇治にハード系パンの文化を根付かせたい
「パンヤ・ア・ラ・ボンヌ・ミッシュ」の開店は2年前。以来、この赤い屋根をくぐる人が絶えません。店主は宇治市出身の水上知也さん。
「大手パンチェーンへの就職を機にパン作りを行ううち、興味が深まって。退職して、東京や神奈川の店で修業したのですが、その中の『ル・プチ・メック』のご店主に影響されて渡仏したんです」
フランスでは「MOF」(特に優秀な職人に与えられる称号)を持つパン職人約50人全員に修行させてほしいと手紙を送付。「その中で、パンの展示会があるので手伝いに来ないかと言ってくれたのが、オーベルニュ地方に住むジャック・スイヤーさんでした」
彼は自分が指導するばかりか、ほかのMOFを紹介したり、製パン学校に通うよう勧めたりと、いろいろ面倒を見てくれたそう。「フランスは労働時間が週35時間以内に定められているので、仕事の効率も学べました」
本場仕込みのハード系パンに人一倍こだわる水上さん。「生地がおいしいと言われるのが喜び。宇治にももっとハード系パンを浸透させたいな」
日間もかけて作られるバゲット。「1900年代初頭のフランスの製法で作っています」。小麦の甘みと香ばしさが、かむほどに広がります
レーズンとクルミの入ったライ麦配合のカンパーニュ生地で、クリームチーズを包んだもの。同店の人気ナンバーワン
スペイン旅行時にヒントを得て生まれた一品。パンの味が良いとサンドイッチもこんなにおいしいんだ、と実感できる一品
名店で学んだ技術の上に、個性がきらめいて
昨年10月にオープンした「サンク」。パン好きの間では有名な吹田の「ル・シュクレ・クール」で修業した宮本正幸さんのお店とあって、東京から訪れる人もいるとか。
「パン作りについてみっちり教えていただいたし、修業先の中では最も大きな影響を受けたお店。でも開店にあたり材料を自分で一から見直したので、同じバゲットやクロワッサンでも少し違った印象だと思います」
あんぱんも宮本さんの手にかかると「オールスパイスあんぱん」に。スパイスのきいたバゲット生地のパンに、粒あんと濃縮クリームが挟まれたもの。その大人っぽい味わいが忘れがたい印象を残します。「あまり新商品を次々出すのは好きではないんですが、常連さんのためにも季節商品などは出していきます」
もともとカフェをやりたいとの思いから、パンの世界に入った宮本さん。将来はイートインができるお店を、という思いも。「せっかく遠くからいらしたのに買っておしまい、というのが申し訳なくて。何よりお客さんの反応が見られるとうれしいですものね」
みずみずしく独特の食感。「水分の多い生地を高温で焼き上げることで、皮は薄く、中はもちもちに」。取材帰り、味見のつもりが止まらなくなった一品
人気ナンバーワン商品。時間がたっても香りが高く味わい深い秘密は「バターがだれないよう、生地の温度管理をこまめに行っているからです」
軟らかい生地の中にはビターチョコレートが。焙煎(ばいせん)カカオのぷちぷちした食感と苦みがアクセント
全部自分の責任だから喜びもつらさも倍に
商店街の途中に突如現れる、鮮やかなブルーの扉。それが「さざなみベーカリー」の目印です。
店主の浪越啓之さんは、元人材派遣会社の営業職という経歴の持ち主。「食べるのは好きでも、パン作りのことは全く知りませんでした」
東京の勤めを辞めた後、「何か手に職を」と故郷の京都へ。「実は陶芸をしたかったんですが、母に“こねたり焼いたりしたいんならパンにすれば”と言われて」。京都のパン店数軒で10年修業した後、同店をオープン。
店内には、ライ麦を配合したドイツパンから定番菓子パンまで、豊富な種類のパンが。価格帯は100~200円台が中心。「特にあんぱん、クリームパン、サンライズという3定番は100円、と決めていたんです」
撮影中、近所の人から「お、取材か」と声をかけられていた彼。「ご近所さんがああして気にかけてくれるのが励み。サラリーマン時代に比べ、全部自分の責任なのでしんどい部分は多いです。その分、ほめ言葉のうれしさもひとしおなんです」
低温で長時間発酵させることで、皮はパリッ、中はもっちりと引きの強い生地に
「アイスにバルサミコ酢をかける食べ方がヒント」と食べ好きの浪越さんらしい発想。さわやかな味わいです
「カカオの香りと甘酸っぱいラズベリーの組み合わせが好きで」。発酵バター使用の豊かな香りの生地はサクサク!