パンや菓子、手芸品などを個人が販売する「手づくり市」。知恩寺や上賀茂神社で開催される同イベントで人気を得て、開店へとステップアップする店も増えていますね。手づくり市に縁の深い新店を集めました。
手づくり市がお店の認知度アップにも貢献
上賀茂の住宅街にある「みずいろぱん」。09年11月オープンのこちらは手づくり市出身ではなく、開店が先。「上賀茂神社なら近所なので、焼きたてを持って行ける。手づくり市に出店したおかげで、たくさんの方に知っていただけました」と店主の光武寿久さん。
光武さんの出身は有田町。それでパンと一緒に有田焼が売られているのですね。「焼き物の仕事に10年ほど携わっていたのですが、合間に趣味で焼いていたパンやお菓子を本格的にやりたいと思うようになったんです」
京都にお店を構えたのは、京都で修業中に結婚したから。「京都はパン屋さんが本当に多い。だからこそ、パン文化をみんなで盛り上げられたらいいですよね」。そう語る光武さんの優しい穏やかな雰囲気が、パンの味わいにも表れています。
光武さんお気に入りの一品。具の牛スジ煮込みは手作り。味わい深い生地とあいまって、赤ワインがほしくなります
「九州時代の知り合いのギョウザ屋さんとのコラボレーション作」というユニークなパン。男子にはたまらない味わい!
食感にこだわり、丸ごとナッツを使用。甘い生地とほろ苦いキャラメルの対比に、フルールドセルが奥行きを与えて
店には来られない人も市で出会えます
赤と白のポップな雰囲気の「テクノパン」。インパクトある店名どおり、店主・佐々木満成さんはテクノ好きの元バンドマン。音楽の道の代わりに選んだのがパンの道でした。「小さいころからお菓子などを作るのが好きだったんです」
ホテルの製パン部門などに勤めた後、1年間、イギリスのベーカリーで修業。「フランスとは違って、イギリスのパン屋さんは“何でもあり”。バゲットもあれば食パンもドーナツもあって、日本と近いかもしれません」
09年に帰国後、知恩寺の手づくり市へ出店するように。開店後も毎月15日は店を閉めて、できるだけ出店しているそうです。「手づくり市は東京や千葉から観光がてら来る人も多いし、伏見の店に来にくい人にも来てもらいやすいので」
明るい店内には、パクパク気軽に食べられる総菜パンや菓子パンが多数。「おしゃれなブーランジュリではなく下町っぽさを大切にしたかったんです」。その証拠に、取材中も中年男性が1人で来店。「ワシ堅いの好きやねん」とバゲットを買っていきました。
天然酵母の生地を一晩寝かして焼き上げ。「この辺にはあまりバゲットが売ってないから」という近所のファンも多数
バターロール生地の水の代わりにトマトジュースを使用。ソフトで食べやすく、チーズとバジルの風味が合います
買ったその場で食べられるように作られ、手づくり市でも人気。名古屋から取り寄せるみそダレがパンにしみて…
手づくり市の縁で、京都に開店
「ラブズベーグル」はベーグル専門店。「ベーグル専門店が多いのは京都の特徴ですね」とは、店主の西田昌史さん。
こちらのベーグルはもっちもちのソフトタイプ。「子どもが食べやすく、お母さんにもおいしいと思ってもらえるものにしたかったんです」
もとは大阪の工場でパンを製造していた西田さん。初の対面販売が、4年前の知恩寺の手づくり市でした。京都で開店したのも、市を通して多くの縁がつながったから。
「手づくり市に育ててもらったという気持ちです。どういうものが人気なのか教えてもらえるし、お客さんと話せるのも楽しみ。昨年の開店時には、特に宣伝せずとも市のお客さんがたくさん来てくださって、ありがたかったですね」
昨年末から、トースターとコーヒーメーカーを設置したイートインスペースも誕生。何と、コーヒーは無料だそう!「パンの味を知ってもらえればそれで…」と西田さんはニコニコ。この笑顔に会いにお店を訪れる人も多いようです。
「女性に人気です」というこちら。紅茶の香りとほんのりした甘さはおやつにも良さそう
一番人気のベーグル。ゴロゴロチーズに、ブラックペッパーの刺激がたまりません
「イベントのみでの販売でしたが、お客さんからご要望があって復活したもの」。春先までの限定品
総務省統計局が全国約9000の2人以上の世帯を対象に行っている
「家計調査」。この調査によると、京都市が年間パン消費量で第1位と
いう結果に(※1)。焼き立てパンを販売するお店の数も、他府県と比
べて多いようです(※2)。
和食のイメージが強い京都で、これは一体なぜなのでしょう。
「学生が多いからパンの消費量が多いという説もありますが、私は違う
と思いますよ」とは、京都の食文化に詳しい、京都ノートルダム女子大学生活福祉文化学部教授の米田泰子さん。
「京都に多くの老舗料亭が残っているのは、西陣のだんな衆をはじめとする、舌の肥えた“受け手”がいたからだと考えています。本当のおいしさを知っており、さらなるおいしさを追求する京都人の気質が、これだけのパン屋さんが成り立つ土壌を育てたのでは」と米田さんは推測します。
「オーブン調理は熱の伝わり方が、焼く・煮るなど和食の調理法とは異なるため、日本料理にはないおいしさがあるんですね。またパンは糖分や脂肪分が高いものが多く、ご飯とは異なる満足感があるもの。伝統は守りつつも、さらに良い、新しいものを求める京都人の気質も、パン食の受容に大きな役割を果たしたのでは」
※1 平成20~22年平均。全国平均一世帯あたり4万5162gに対し、京都市は6万2530g
※2 平成19年度都道府県別商業調査に基づき、人口に対するパン製造小売業の事業所軒数を比較。人口1万人に対し、京都府約1.4軒、大阪府1軒、兵庫1.1軒。他地方では神奈川県0.8軒、愛知県0.7軒など