いよいよ、桜の季節。あなたはどこの桜に、何を思いますか? 京都で活躍する、ものづくりのプロたちに、作品づくりの意欲をかき立てられる桜を、教えてもらいました。
書家で俳人でもある谷村秀格(たにむらしゅうかく)さん(35歳)は、看板を手がけたり、書道パフォーマンスに出演したり、句会を主宰したりと精力的に活動中。谷村さんが魅力を感じるのは、街と桜が調和した美。「町家、舞妓(まいこ)、鴨川など、街と桜が一体となって美を構成しているのは京都ならではですね」
「調和」という点では書と共通する部分が。「書は言葉ではなく、造形や全体のバランスが大切。“字”ではなく“美”を書く芸術なんです」とか。見せてもらったのは、かすれを大胆に生かして書かれた書作品「さくら」。「時代を超え、街に美しく調和する京都の桜のイメージを、縦と横の広がり、にじみやかすれなど、いろいろな要素を持つ書で象徴してみました」
お気に入りの桜は、京情緒あふれる巽橋付近。近くにあるレストランから、窓越しに桜や街を眺めながらおいしい食事を味わうことが、毎年の楽しみなのだそうです。
藤井友子さん(47歳)は、「若い世代も気軽に京手描き友禅に触れる機会を」と、普段使いの着物のほか、タンブラーなどの小物も制作する着物プロデューサー。もともと四季折々の風景を柄にすることが多い着物。京都府立植物園横の鴨川沿いの桜は、そんな華やかな着物のイメージと重なるのだとか。「街中からちょっと足を延ばすだけで、自然を感じながら桜を見られます。ぱぁっと開放的な雰囲気で、着物を着たときの心踊る気持ちにも通じますね」
今後は桜柄など季節感あるものを小物に、と考案中です。
「桜はオーソドックスなものや、動きのある枝垂れ桜も柄にしてみたい。若い人に“かわいい”と言ってもらえるようなガーリーな商品も作っていきたいです」
満開の桜の下、和菓子職人への決意を新たにしたのは「総本家よし廣」の水内菜奈美さん(34歳)。5年前の春、京都府菓子技術訓練校で一緒に学んだ親友が体調を崩し、実家のある高知で家業を継ぐことに。そんな別れの時期、今宮神社を訪れ、公園で二人で話したそう。「桜を眺めながらお互い頑張ろうと語り合いました。“友達の分も”と決意したこの時間を今も大切にしているんです」。
以来、伝統を受け継ぎながら、新しい和菓子にも取り組む日々。要望に応じてデザインする「和菓子ケーキ」は、1カ月待ちになることもある人気商品。「お菓子を見て情景が思い浮かんだらうれしい」と水内さん。
思い出の今宮神社を表現した和菓子ケーキを親友に見せたら─? 「何て言ってくれるでしょうね」と照れくさそうな笑顔を見せてくれました。