「もぉー腹立つ!」「イライラする~っ」。私たちの日常にしばしば登場する“怒り”。できれば毎日笑顔でいたいけれど、この感情をなくすことは難しいですよね。では、怒りと上手に付き合うヒケツはないのでしょうか? 今回は怒りの感情と向き合って、そのヒントを探しましょう。
そもそも、”怒り”とは何なのでしょう? 「定義は、自分自身の気持ちや身体を、物理的、社会的に攻撃されたり、侵害されたと感じたことによって生じるネガティブな感情」と教えてくれたのは、心理学と脳科学を融合させた認知神経学を専門とする京都大学准教授の野村理朗さん。感情について研究している専門家の目線から、”怒り”をひもといてもらいました。
「怒りのスタート地点は脳の扁桃体(へんとうたい)という部分。扁桃体が自分自身への脅威を察知すると、体にストレス反応を起こすホルモン、アドレナリンを分泌させます。その作用で心拍や血圧、呼吸数の増大、骨格筋への血液増加、発汗などが起こります」。これが怒っているときの体の状態。ちなみに、この自律神経系の異変を再び扁桃体が感知すると、さらにアドレナリンを分泌させ、怒りの感情を大きくしていくのだそう。
怒りが私たちに及ぼす具体的な影響には、2つの顔があると野村さん。「怒りが負の面しかもっていないなら、人間の感情からはとっくに消滅しています。よい面もあるからこの感情が存在するのです」。具体的には―。
体やこころの健康にマイナス作用が
「心拍や血圧など自律神経系の働きが高まったときブレーキ役となるのは副交感神経。怒りやすいと副交感神経の働きも低下するので、心臓病のリスクを高めてしまいます。
また、ストレスに対して体はストレスホルモンを放出します。これは本来、体に必要なホルモンなのですが、怒り続けていると長期間放出され続け、体に負荷をかける結果に。
一方、怒りのほこ先が自分自身に向かってしまう場合は、こころに悪影響が。自分を責め、うつの原因になる場合があります」
「くやしさや腹立たしさが気持ちを奮い立たせてくれることがありますね。問題解決に向けて努力しようとする適応行動も、怒りは生み出してくれるのです。また何かのかたちで怒りを発散すれば、同時にストレス発散にも。みなさんも経験があるのでは?
さらに、社会的な不当性や故意性を感じたときは、怒りを表現することでよい方向にむかうことも。例えば公正性を回復させたり、周囲と理解し合えるきっかけになります」