甘味、酸味、苦味、塩味を感じ取る“味覚”。この感覚が敏感だと、食事を作るのも、食べるのもより楽しめそうですね。子どもたちの食育にも役立つ味覚の育て方を学んで、より良い食生活を送りましょう。
「塩味がばっちりきまってる!」「酸味がちょうどいいね」。 何げなくこんな会話ができるのも、味覚が働いているオカゲ。 私たちの食の楽しみを支える味覚について、洛和会音羽病院 京都口腔健康センターの顧問・飯塚忠彦さん(京都大学名誉教授)に聞きました。
まずはみなさん、舌を鏡でよ~く見てください。さまざまな形状の突起がありますよね。これが“乳頭”。乳頭には、糸状(しじょう)乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭、茸状(じじょう)乳頭という4つの種類があり、糸状乳頭以外の3つに、味覚の鍵を握る味蕾(みらい)が存在しています。
「味蕾はいくつもの味細胞(みさいぼう)が集まって形成されており、名前の通り、花のつぼみのような形をしています。この細胞を通して脳に指令がいき、味を感じるのです」と飯塚さん。
味蕾は、70ミクロンという、目にはみえないほどの大きさ。「皮膚と同じで日々、生まれ変わり、その数は無数。ですが、加齢とともにその数は減少、つまり味覚も衰えていくというわけです」
とはいえ、ちょっとした心がけで、味細胞の働きをサポートすることもできるそう。そのポイントは2つ。
「一つ目は、舌の上にできるコケ状の付着物“舌苔”をなくすこと。舌苔で舌がおおわれていると、味細胞に刺激が届きません。専用の舌ブラシを使って除去するといいですね。歯磨きをするときに歯ブラシで奥から前へ、優しく舌を洗っても構いません」(飯塚さん)
もう一つのポイントが「味細胞が傷ついてしまうので、舌に炎症を起こさないことが重要。そのためにも、バランスのよい食生活を送ってください。舌の粘膜を健康に保つためには、ビタミンB2、B6、Cも有効です」
老化による味覚の衰えとは別に、「味を感じない」という症状を訴える人もいます。これが、“味覚障害”です。
味覚障害の一番の原因が亜鉛不足。亜鉛が不足すると味細胞が生まれ変わるスピードが遅くなるのです。
「不足する原因として、腎臓・肝臓・甲状腺の異常とのかかわりがあります。薬の作用で亜鉛が体外に出ることもあるので、服用の場合は医師に確認をしておくといいでしょう」
普段の食生活では、亜鉛を含む食材(牛肉やゴマ、カキ、ヒジキ、シジミなど)を意識して摂取するのもいいそう。
また、心因性の味覚障害も増加しているのだとか。
「ストレスが原因だったり、老年期のうつ病や睡眠障害の一症状として現れることもあります。落ち込んでいるときは、食事もおいしく感じられませんよね。心身ともに健康でいることも味覚と大きなかかわりがあるんですよ」
飯塚さんのもとに診察に訪れるのは圧倒的に女性、しかも更年期を過ぎたころの年代の人が多いそう。女性ホルモンの減少が関係しているとも考えられるそうですが、ストレスも無縁ではないのかも…。
洛和会音羽病院 京都口腔健康センター 顧問・飯塚忠彦さん
「食事を楽しむためには、味覚だけではなく香りや食感も大切。これらの感覚を十分に働かせるためには、生活の質を高め、心身ともに健康でいることが非常に大切なんですよ」