楽しく、豊かな食生活のために “味覚アンテナ”を磨きたい

楽しく、豊かな食生活のために “味覚アンテナ”を磨きたい

料理のプロに聞く 味覚の育て方

おいしい料理を作る料理人や、そんな料理人を育てる調理の専門家。日々、“味覚真剣勝負!”の料理のプロフェッショナルが、味覚の育て方、普段の食生活で大切にすべきことを話してくれました。親子で参考にしたいことがいっぱいです。



「五感を駆使することも大切です」

京都調理師専門学校 校長・田中幸雄さん

京都調理師専門学校 校長・田中幸雄さん

「家庭でも日々の食事の中で味覚を高める工夫をしてみてください。例えば、コーンスープやミネストローネなど野菜を加熱したスープは、砂糖の甘味ではない、野菜の“甘味”を感じられますよ」

「健康で規則正しい食生活を送り、栄養バランスのとれた食事をしていると、おのずとおいしいものをおいしいと感じられると思います」と話すのは、京都調理師専門学校の校長・田中幸雄さんです。料理をしっかりと味わうには、味覚を高める(表参照)ことはもちろん、ほかの感覚を駆使することも大切だとか。

「料理がきれいに盛り付けられていたらおいしそうですよね。これは“視覚”から情報を得ます。料理から立ち上る香りを楽しんだり、食べ物の鮮度や熟度によるにおいで食品の安全度を確かめる、これが“嗅覚(きゅうかく)”。野菜や魚に触れて『新鮮だから張りがあるな』と確認したり、温かいスープの温度を舌で感じたりするのが“触覚”です。“聴覚”で、バリバリ、ボリボリ、ジュージュー、クツクツという音を知る。こういった五感で総合的においしさを感じるんです。家庭では、親子で料理をしながら、五感を刺激する“食の環境づくり”も行ってほしいですね」

祭時食やおきまり食も日々の食事に取り入れて、と田中さん。
「祇園祭の時期にはハモ料理を食べたり、京都では1日・15日には小豆ご飯を食べたり…。こういった食文化は栄養学的に理にかなっていることも多く、健康的で経済的。また、季節の移ろいを感じることで感受性を豊かにすることもできます」

子どもたちに、豊かな食生活を過ごさせるためには、まず大人が食への意識を高めることが大切といえそう。




田中さんによる
味覚を高めるための日々の心がけ6ヵ条
①同じものばかりを食べない
「個食(孤食)がすすみ、自分の好きなものだけを選んで食べる人が多くなっています。できるだけ家族で食べることで、変化に富んだ料理を食卓に並べることができます。献立は子どもの好き嫌いにあわせるのではなく、いろんな食材や調味料、調理法などで工夫できればさらに効果的だと思います」
③食事に興味を持つ
「人は自分が興味をもてないことには、それほど意欲的には行動できないと思います。まずは食べ物に興味を持つことが肝心。そのための勉強は毎日の生活の中で実践できます。子どもに興味を持たせたい場合、買い物に行ったときにいろいろな食材を見せたり、食事を一緒に作ったり。子どもにとっては、そんな体験が興味を深めるきっかけになるでしょう」
⑤よくかむ
「味蕾(みらい)は、液状に近いものほど味を敏感に感じ取ります。食べ物をよくかむことで、食材がもつ奥深さを感じ取ることができます」
②食事に集中する
「食事時間は、会話を楽しむほか、味自体を楽しむ時間でもあります。そのためには、味覚を含めた五感を味に集中させないといけません。例えばテレビを見ながら食事をすると、そちらに意識がいくあまり味覚が鈍ったり、そしゃく回数が減るということもあるそうです。会話と味、両方を楽しむ食事にするために集中したいものです」
④味覚を知り、いかす
「うま味も含めた“五味”をバランスよく組み合わせると、おいしく料理が出来上がります。何品かを作る場合は、すべてが同じような味の料理にならないように気を配りたいものですね」
⑥食材を知る
「旬の物は、栄養価が高く、野菜であれば甘味が増していたり、魚であれば脂がのっています。こういった食材への知識を深め、食材が持つ本来のおいしさを味わうことも重要です」
味覚テストにチャレンジ

「味を正しく感じ取れるかを家庭でテストしてみましょう。どれも微妙な味わいです。これまでの経験だと大人よりも子どものほうが鋭いですよ(笑)」(田中さん)

次の4つの水溶液を飲んで、
何の味がするか当ててみましょう。

  • 甘味 ・・・ 砂糖1%の水溶液
  • 酸味 ・・・ クエン酸0.01%の水溶液
     ※クエン酸は薬局などで入手できます
  • 苦味 ・・・ にがり2%の水溶液
  • 塩味 ・・・ 食塩0.1%の水溶液
「意識をしながら味わって」

菊乃井・村田吉弘さん

菊乃井・村田吉弘さん

味覚を鈍らせないために、たばこは吸わないという村田さん。「口の中が気持ち悪いし、ものの味がストレートに分かりませんから」

大正元年創業の老舗料亭「菊乃井」の3代目・村田吉弘さん。本来の“おいしいもの”に気付いてもらうため、小学校で話をすることも多いそう。

「小学校では、和だしについての授業をしています。本当のだしのおいしさを知ることは教養やと思っています。実際、子どもたちに和だしを飲んでもらったら、びっくりしていますよ、むっちゃおいしいって。子どもは強い味を好んで食べる傾向がありますが、本当においしいものは分かるものです。また、そういう子どもに育てないと、今後、おいしいものは増えません」

“本当の味”を知るためにも、「子どもには何でも食べさせて、いろんな味の経験をさせて」と村田さん。「僕が小さいころは、渋柿なんかも口にしてました。で、『これはあかん』と思ったら吐き出してた。それでいいんです。体に良くないと判断したら、体外に出す。味覚とは自己防衛の一つですから」

海外に出かけることも多い村田さんは、「野菜、果物、肉、魚、なんでも日本の食材は世界一! 世界中を旅している僕が言うんだから間違いない(笑)。だから、自国の料理に誇りを持って味わって」

そんな美味なる食材を通して味覚を育てるコツは?

「食べるときに意識をすること。例えば、新米、おいしいですよね? でも、その同じ米を半年後に食べるとどうでしょう。最初に意識をして味わっていると、味が変わっていることに気付きます。トレーニングは何でも同じですが、やはり意識をしながらすることが大切だと思います」

「どれだけ“まっとう”に考えているか、です」

京都ブライトンホテル フレンチレストラン「ヴィ・ザ・ヴィ」 料理長・滝本将博さん

京都ブライトンホテル フレンチレストラン「ヴィ・ザ・ヴィ」 料理長・滝本将博さん

「食べ物で自分の命が守られています。子どもたちに、食と素材に感謝する心が育つように接してあげてくださいね」

「大切なのは、日々、どれだけ“まっとう”に食について考えているかということです」。これは、京都ブライトンホテル フレンチレストラン「ヴィ・ザ・ヴィ」料理長・滝本将博さんに、子どもの味覚を高めるため大人は何を心がければいいですか?という質問への回答です。

「子どもは、大人が用意したものを何の違和感もなく食べます。ですので、食事を与える側がどれだけ食べることに意識を持っているかが重要。一つでも二つでも、できるだけナチュラルなものや自然なものを選んでください」。滝本さんによると、味蕾は10歳前後で形成されるので、この時期に食べていた物の記憶はずっとインプットされるのだとか。

「地元の新鮮な食材を食べるのもいいですね。食べ物に先入観のない時期の子どもたちは、“素材自体の味・香り”が分かるものです。そのときはぜひ、大人も一緒に味の体験をしてください。
それからお手伝いも。買い物に一緒に行ってスーパーで食材を見たり、食事を作ったり。こういった、食べ物を舌の上にのせるまでの過程も、味覚の発達を促し、食への関心を高めるためにはとても大切なことなんですよ」

“時間の共有”も重要な要素、と滝本さん。

「家族で同じ物を食べて、『おいしいね』と共感しあいましょう。そして、それを表現する方法がない子どもたちに『この料理はどんなとこが好き?』と聞いたり、大人は具体的に味の感想を伝えてあげて。こうすることで、どういう味だろう?と考えたり、味の表現方法を学んでいきます」

食卓を囲みながら、食材がどこで、どんなふうに育ったかを説明するのも食への関心を高めることに役立つそうですよ。

編集担当者より
食べることも料理をすることも好きですが、味覚センサーには自信ナシ、な記者。今回の取材を通して、味覚を高めるには食材や旬、感覚への意識のありようがとても大切だと教わりました。大人の私たちも、「今からじゃ遅い」なんてことはありませんよー。

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