
花や木から、食品や化粧品といった身近な商品が作られているのを知っていますか。京都府で生産されている商品を、開発の背景、作り手の思いとあわせて紹介します。
撮影/深村英司
菜の花 → 漬物
人と人とをつなぐ 松ケ崎の農家の伝統食
左京区「菜の花漬」
菜の花(畑菜の花)を塩漬けにして発酵させた、「菜の花漬」。左京区松ケ崎の米農家に代々伝わる伝統食で、「花漬(はなづけ)」とも呼ばれます。
江戸時代以降、松ケ崎の米農家の多くは、米と菜の花の二毛作を行ってきました。菜の花を栽培したのは、菜種油を取るため。「菜種を多く収穫するには、一番花と呼ばれる最初に咲く花を摘み取って新しく生える脇芽を成長させる必要があります。明治時代の初めに、ある農家がその一番花を漬けてみたのが『菜の花漬』の始まりと言われています」と話すのは、このエリアで農業を営む岩﨑正彦さんです。
「昔は農業で使う下肥え(※1)を、下鴨の町家からもらっていました。『菜の花漬』は、そのお返しに贈っていたものです。農家の女性による振り売り(※2)でも扱われていたとか」
岩﨑家では毎年、3月から4月に菜の花を収穫。自宅で3週間ほど漬けた後、5月上旬頃に完成するといいます。「お渡しするのはその年の生産量に応じて10〜20人前後。主に友人や地域の方、下鴨に住む振り売り時代からの常連さんもいます」。手渡しで届ける際には、今年の仕上がりなどもあわせて伝えるのだそう。
今も「菜の花漬」は、人と人とをつなぐ役割を担い続けています。「私にとっても酒の肴(さかな)に欠かせないもの。心待ちにしている人のために、体力が続く限り作り続けます」
(※1)人間の糞尿を腐熟させ、肥料としたもの
(※2)町中を歩き回りながら販売する行商スタイルのこと


茶の花 → 化粧水
耕作放棄地を有効活用 地元の人や専門家と開発
南山城村「few」の「フラワーエッセンシャルローション」
茶業では使われない茶の花を用いて、南山城村で開発されたのが「few」の「フラワーエッセンシャルローション」です。常温で抽出した茶の花と葉のエキスで作られています。
同商品を扱う「エコ・クリエ」代表の西村庄司さんによると、「かんきつ類を思わせる、茶の花のほのかな香りでリフレッシュしながら肌を保湿できます。刺激が少なく、敏感肌の人にもおすすめ」とのこと。
南山城村と西村さんの縁が始まったのは、2018年。当時勤めていた環境調査会社の業務で、農地で実証実験をするために訪れたのがきっかけでした。「目に留まったのが、後継者がいないために放置された茶畑。そのままでは周辺の畑を荒らす野生動物のすみかになりかねません。耕作放棄地を整備しながら茶の花を有効活用したいと考えるように」
2021年には、地元の人や専門家、研究者らとともに開発チームを発足。南山城村や京都府の支援も受けながら商品開発を進め、翌年、同社を設立して商品販売をスタートさせたそう。「放置されている茶畑は他の地域にもあるはず。茶の花の活用を全国に広げたい」と、西村さんはさらなる夢を語っていました。



桜 → 蜂蜜
純度の高い〝桜の蜂蜜〟は農地が少ない地域だからこそ完成
北区「HONEY.K」の「京百花 サクラ」
桜の魅力を舌で楽しめる一品があると聞き、蜂蜜ブランド「HONEY.K」の店舗を訪ねました。
その商品とは「京百花 サクラ」。主に歴史的風土保存地区とされる上賀茂、大原、八瀬、岩倉といった京都市北部に咲く十数種の桜の花から、蜂が集めた蜂蜜です。口に入れると、雑味のない優しい甘さが広がった後、ほんのり桜餅のような風味が。
「農地の多い地域に巣箱を置き、蜂の巣から蜜を採取すると、同時期に咲くアブラナ科植物の花の蜜が混じりがちに。養蜂場周辺は比較的農地が少ないため、純度の高い桜の蜂蜜が採取できるんです」と、同ブランドのオーナーの木村純也さん。
「蜂に良質な蜜を集めてもらうには、生態系が保たれた自然環境が欠かせません。総面積の約75%を森林が占める京都市域は豊かな動植物による生態系が自然のままに多く残されていて、養蜂に適した地域。京都産の蜂蜜を広めて生産地に興味を持ってもらうことが、環境保全にもつながると考えています」



コウゾ、ミツマタ → 和紙
800年以上続く手すきの技法で印刷しやすい紙に
綾部市 「黒谷和紙」のハガキ
綾部市の黒谷町を中心とした地域では、800年以上前から「黒谷和紙」と呼ばれる和紙を生産しています。ハガキや証書用紙などの印刷に使う商品には、コウゾとミツマタが使われています。
「コウゾの繊維は長くミツマタの繊維は短いので、紙をすくときに両者が絡んで、凹凸が少なく印刷しやすい紙になります」と教えてくれたのは、黒谷和紙協同組合の山城睦子さん。
黒谷和紙は、多数の手のかかる工程を経て作られます。まず原料の枝を蒸して皮をはぎ、表皮を除いて「白皮」と呼ばれる状態に。その後、白皮を細かくして糊料とともに水に溶き、その液から、職人が紙をすいていきます。「紙すきの工程では、和紙の種類に応じてすき方を変える必要があり、熟練するには10年ほどかかります」
現在の職人数は7人で、全体的に高齢化が進んでいるそう。「先人たちが守ってきた技術を未来に残すためにも、担い手を増やして産業として盛り上げたい。より多くの人に和紙に触れてほしいですね」

※紙の端がすいたままで裁断されていない状態のこと


〝収集欲を満たす多様さ〟も花の魅力 城陽市では豊かな地下水が栽培の決め手に
園芸学を専門とする京都先端科学大学バイオ環境学部特任教授の土井元章さんに、花の魅力や京都の花について聞きました。
「人に癒やしをもたらす花は、心の糧といえるのでは。研究によって、個人差はあるものの、色鮮やかな花を見たり香りを嗅いだりすると、心身ともにリラックスできる効果があることが分かってきています。その多様さも魅力。種類、品種が豊富で、所有欲や収集欲を満たしてくれます」
京都府内ではどのような花が生産されているのでしょうか。
「地下水が豊かな城陽市は、白い筒状の形をした『カラー』の近畿有数の産地です」。城陽市では、ほかにも花ショウブやハスの生産が盛ん。

「向日市ではポインセチアや『懸崖菊(ケンガイギク)』が古くから栽培されています」。「懸崖菊」は、大正時代から栽培が始まり、今では向日市の特産として知られ、動物などを形作る〝トピアリー〟として展示されることも。
野生の花ではキクタニギク、ユウゼンギクなどが代表的なものとして挙げられるのだそう。「『キクタニギク』はかつて京都市東山区の菊渓(菊谷川)に自生していましたが、現在、この地域では絶滅。地域住民や行政が、復活を目指した保全活動を進めています」
(2025年3月15日号より)
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