ニュースやSNSなどで見聞きする教育にまつわるキーワード。どのような教育なのか知っていますか。五つのキーワードについて調べてみました。京都で実践されている取り組みについても教えてもらいましたよ。
デジタル教科書
タブレット端末で見る教材が導入され、子どもたちの学びが多様化
英単語や英会話例をクリックすると、聞こえてくる英語の音声。タブレット端末の画面上で教材を見る「デジタル教科書」が、京都府内でも導入されています。
「デジタル教科書は従来の紙の教科書と併用して使われ、映る画面もほぼ同じです。タブレット端末は小中学校で一人に一台、無料で貸与され、自宅にインターネット環境がない児童・生徒にはモバイルルーターの貸し出しも行われています」と、京都府教育庁の平山孝次さん。
「音声や動画から、豊富な情報を得られるのが特徴。書道では手本の筆の動きを何度も見返せて、体育では自分の側転する姿を撮影して見本動画と見比べられます。質問するのが苦手な子も、動画なら繰り返し見られて学習しやすいという場合も。
教員の教え方にもより幅ができます。例えば、社会科の調べ学習で、紙の教科書には調べることや方法が記載されていますが、デジタル教科書では、あらかじめ付箋の機能を使ってそれらを隠しておくことができ、子ども自身に考えてもらえます。教員の工夫次第で、子どもたちの探究心を引き出せるんですね。指導の手段が増え、多様化することで、子どもたちの主体的な学びにつながると思います」
生成AI・AIの利用
簡単に情報が得られるからこそ、どう付き合うかが大切
「生成AI(人工知能)」は、過去の学習データから瞬時に文章、音楽、映像などのオリジナルコンテンツを作り出します。「子どもたちは幼い頃からネット環境が身近にあります。簡単に生成AIが答えを出してくれる時代だからこそ、そうしたAIとどのように付き合うかを教えることが大事です」とは平山さん。
「生成AIの回答をそのまま写しても、子どもたちは心から満足できないはずです。ルールを身に付けさせること、学ぶことの意義を教えることが重要になってきます。生成AIの回答や情報が本当に正しいのか確かめる能力や、情報を得るためにどのように生成AIに質問するか考える学びにもつなげられると思います」
京都府内の一部中学校では、AI英会話アプリを活用している例も。
「AIと会話ができ、文法や発音の採点も行えます。人との英会話は緊張しても、AI相手なら間違えても恥ずかしくなく自信が付く。自宅学習も可能なため、練習時間も増やせます。中には、わざと間違えたらAIはどう返事をするか実験する子も。対話自体を自ら楽しみ学ぼうとする姿勢が、AIによって引き出されたともいえますね」
教えてくれたのは
京都府教育庁 指導部
学校教育課
総括指導主事
平山孝次さん
STEAM(スティーム)教育
各教科を横断しての学びを推奨 身に付けたいのは論理的思考力
「STEAM教育」とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(アート)、Mathematics(数学)の各教科を横断的に学ぶ教育。「元はアメリカで提唱された科学技術教育のSTEМ(ステム)教育に、文系要素のArtsが加わった考え方です」。そう教えてくれたのは京都教育大学理事・副学長の浅井和行さん。
「科学技術を身に付けるだけではなく、論理的な思考力を育てることを推奨するものです。メディアリテラシー(情報を読み解く力)を持って考え、体験しながら学ぶことが大切になります」
小学校の総合的な学習の時間、中学校の技術・家庭科、高校の探究の時間、情報科などで取り組むことが望ましいとされますが、「日本では学習指導要領が綿密に決められていて本格的に取り組むのは難しい。そこで、小学校ではプログラミングだけが必修化されました。ですが、プログラミング技術を学ぶのがSTEAM教育ではありません。
実践例では、ドローンのプログラミングを通して、社会の役に立つアイデアを考え探究する授業を行った小学校も。大切なのは、失敗したときに『なぜ?』と考える力やその道筋を説明できる力。日常の中でも、さまざまな体験を通して、そうしたことを学んでほしい」。
アントレプレナーシップ教育
社会問題などの課題解決に起業家的能力を育てます
「起業家教育」とも呼ばれる「アントレプレナーシップ教育」。といっても、将来起業する人を育てる教育ではなく、社会問題などを解決する起業家的能力を育てる教育だと浅井さんは言います。
「リスクに対してどのように計画するか、問題が発生したときにどのように解決するか、じっくりと考える論理的な思考力はどんな職業にでも必要。STEAM教育とも重なります」
総合的な学習の時間などで実践している小学校もあるといいます。
「例えば、昔ながらの和菓子店のまんじゅうを若い人にどのように売るか、お店に協力してもらいながらデザインや売り出し方などを子どもたちで話し合います。アントレプレナーシップ教育は人とのコミュニケーションも重要で、他人と議論したり切磋琢磨(せっさたくま)した経験が将来のキャリアに生きてくると思います」
教えてくれたのは
京都教育大学
理事・副学長
浅井和行さん
包括的性教育
ジェンダーなどテーマは幅広く 大人も一緒に考えて対話を
「これまでの性教育というと、生殖や月経、性感染症など限られたトピックスでした」と話す、京都教育大学総合教育臨床センター学びサポート室講師の門下祐子さん。「包括的性教育」は国連教育科学文化機関(ユネスコ)が中心となって提唱する「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を指針に八つのキーコンセプトが定められ、人との関係性やジェンダーなど幅広いテーマを含みます(表参照)。
「包括的性教育は、性に関する疑問や課題に気が付いた上で、考える教育。〝男・女らしさ〟にしばられていることなどを見直して、豊かに生きていくためにはどうすれば良いかなどを考えていくことが大事です」
男子校の生徒が生理用品を体験してみるなど包括的性教育に取り組んでいる学校もあるとか。
「家庭でも子どもからの性に関する質問をはぐらかさず一緒に調べるなど、対話のきっかけに。性に関して困ったら家族などに相談して良いのだと思えるような、対等な関係を日頃から築けると良いですね。
自分の体のことは自分で決める権利があることも包括的性教育では重要な視点です。性は人生の基盤になることで、ライフステージによって悩みも異なります。〝性教育〟を十分に受けられてこなかった大人も一緒に学んでいきたいですね。
変化する世の中で、子どもには選び取る自由を。身近なところなら服やランドセルの色を自分で選ばせるなど、子どもの主体性を大切にしてあげてください」
教えてくれたのは
京都教育大学
総合教育臨床センター
学びサポート室
講師
門下祐子さん
部活動の地域移行・地域連携
外部との連携で専門的な指導が可能に 教員の負担が軽くなる期待も
少子化が進む中、中学生がスポーツ・文化芸術活動に継続して親しむことができる機会の確保のため、学校と地域のクラブなどとの連携や指導者の派遣を国が推進しています。京都市での取り組みについて、京都市教育委員会体育健康教育室に聞きました。
「昨年度から来年度までは『休日の部活動の地域移行・地域連携』の国の改革推進期間。京都市でも実践研究を行っています。2022年度から続けているのが、大阪成蹊(せいけい)大学・びわこ成蹊スポーツ大学との連携。専門的指導が可能な学生を顧問の補助として派遣し、今年度は15校でソフトテニスやバドミントンなど25の部活動で実施します」
専門的な指導で能力が向上したとの声もあるといいます。
「隣接の中学校の陸上部と野球部が合同で部活動を行う、エリア制合同部活動も今年度新たに実施。競技が分かれている陸上部では専門的指導のできる指導者がそろい、野球部では対戦形式の練習が可能になりました」
教員の負担軽減にもつながりそうですね。
「これまで競技経験のない教員が顧問となるなど、専門的指導ができないといった課題がありました。さまざまな方法を試しつつ今後も充実していければと思います」
(2024年9月21日号より)
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