誰しも年を取るもの。身近な親の老化にどう向き合っていくか、改めて考えてみませんか。
※リビング読者にアンケート。有効回答数474。本文( )内は読者のイニシャル 撮影/二階堂直敬
〝親のため〟が空回りに?
いつまでも親には健康で幸せに暮らしてほしいけれど、その思いが時に空回りしているように感じることも─。読者にアンケートを行ったところ、そんな事例が多数挙げられました。
老化がもたらす変化、それに合わせた接し方とは。老年学を専門とする「京都大学 こころの未来研究センター」特定講師の清家理(あや)さん、介護付き有料老人ホーム「京都〈ゆうゆうの里〉」のスタッフ・伊藤智美さん、富山友加里さんが読者にアドバイスしてくれました。
体によくないのに…
病気はもちろん、食生活や運動不足など親の健康面が気になる読者は多数。つい注意をしたくなりますが…
- 【60代・母】健康診断を受けてくれないので、誕生日プレゼントにしようとしたが断られた(MNさん)
- 【90代・母】糖尿病なので甘いものや料理の砂糖を減らすと、『楽しみがない』と怒られます(NAさん)
- 【80代・父】お酒を飲みすぎる父。趣味もなく家に閉じこもりがちなので、母とふたりで連れ出すようにしています(MWさん)
\親世代のホンネ/
- これまでこの食生活で大丈夫だったので、今さら変える気はない(FTさん)
- 自分の体は自分が一番よくわかっている(STさん)
アドバイス
間食やアルコールを過剰摂取する人は、食事が不十分で空腹である可能性も。年とともに味覚は鈍化し、より甘いものや濃い味を好むようになります。薄味でもおいしく食べられるよう、だしのうまみや香りを活用する、器にこだわるなどひと工夫を。病院に行ってくれない親には「健診は国が勧めていることだから行かないと」と果たすべき役割として伝えるのも一案(清家さん)
退職や配偶者の死が原因で閉じこもりがちな場合は、無理に活動を迫らないように。親の気持ちが落ち着いたら、家事をお願いするなど、役割や居場所づくりを。趣味のサークルを勧めるなら、「付いてきて」とお願いしてみて(伊藤さん・富山さん)
車の運転、そろそろ引退を
近年問題になっている高齢ドライバーによる交通事故。親に運転をやめてもらいたいけれど、うまく説得できない読者も
- 【80代・母】免許証返納を勧めても聞く耳持たず。とりあえず安全機能付きの車に買い替えた(IHさん)
- 【80代・父】『おいしいものを食べに行こう』と連れ出し、その流れで免許証返納に。車は思い出の品として駐車場に置いています(IKさん)
\親世代のホンネ/
- 歩くのがつらいし、今までより気を付けて運転している。うるさく言わないで!(YTさん)
- 返納時期は自分で決める(TAさん)
アドバイス
通勤や家族との旅行など、人生とともにあった車を奪われるのは、親自身の役割を奪われるように感じるもの。無理やり免許証返納を迫ると逆効果に。手放さない理由をきちんと聞いたうえで、交通手段や、運転に変わる新たな趣味を見つけてあげるなど代替案を提案して。警察庁の「安全運転相談窓口」では、高齢ドライバーやその家族からの相談も受け付けています(伊藤さん・富山さん)
性格が変わった?
親が頑固になった、怒りっぽくなったなどという声も。年とともに愚痴が増える傾向もあるようです
- 【80代・母】のんびりした性格だったのに、近年とても怒りっぽく嫌みな言動が目立つように。否定せず、聞き流しています(KKさん)
- 【70代・父】頑固だし、間違っていることを注意したらすねるので会話にならない(KMさん)
- 【70代・母】母から父の愚痴を聞かされるのがつらいです。ふたりの間に入り、仲裁しています(IKさん)
\親世代のホンネ/
- ストレスや不満を解消する機会が減っているから仕方ない(YTさん)
- 年を取ると、周りの行動が気になりすぐ口にだしてしまう(TKさん)
アドバイス
高齢になると高音が聞き取りにくくなります。それにより、相手の話すことをうまく理解できず混乱し、怒りっぽくなっている可能性も。低めの声で、ゆっくり短い言葉に区切って話すことを心がけましょう。また耳あかがたまっている場合もあるのでケアを促して(清家さん)
老化に伴い、『先鋭化』といって悲観的、怒りっぽいなどの性格がより強く現れることも。また、加齢とともにできなくなることが増えたいら立ちが、怒りや愚痴として現れる場合もあります。よく話を聞き、親が本当に伝えたい思いをくみ取って(伊藤さん・富山さん)
家が片付かない!
親の住まい、特に冷蔵庫が片付いていないとちゃんと暮らせているのか心配に。
- 【70代・父】昔の雑誌や郵便物などの書類が書斎に山積みに。いるものといらないものを分けるよう話したが、結局片付かない(HYさん)
- 【70代・母】実家が散らかっているので片付けようとしたら、『放っておいて』『いつか使うかも』『思い入れのあるものだから』などと怒られた(KAさん)
- 【70代・父母】2人暮らしなのに複数の冷蔵庫・冷凍庫を使用。賞味期限切れの食材などが入っているけれど、それを指摘すると怒られる(TMさん)
\親世代のホンネ/
- 分かっているけれど、体を動かすのがつらい(NKさん)
- 誰に迷惑をかけるわけでもないので大目に見てほしい(YTさん)
アドバイス
高齢になると変化に対応しづらくなりがち。片付かないことを責めるのではなく、「これは〇個ないと心配?」「あれは何に使う予定?」など、物の多さを視覚化しつつ、それぞれにどんな思いや考えがあるのかを聞いて一緒に仕分けを。勝手に捨てるのは親の不安を増幅させるので極力避けて(清家さん)
想像以上に体を動かすのがつらい、また「年だからどうなってもいい」といった心の落ち込みが原因の場合も。同じものを買う、買ったことを忘れる、というのは認知症の前ぶれなので、主治医に相談を(伊藤さん・富山さん)
老いに伴う変化を理解し尊敬の念を持って対応を
「人間の脳は40代ごろから委縮し始めるといわれています。進行すると意欲がなくなる、感情が制御できなくなるなどの症状が現れることも」(伊藤さん・富山さん)
時に理不尽と思われるような親の言動も、脳機能の低下によるもの、ということを理解すれば、子も冷静に対応できるかもしれませんね。
また、環境の変化も親の心理に影響を及ぼすよう。清家さんによると、「仕事を退職、子が巣立ち、体力もなくなり…。高齢になると、さまざまな喪失体験が重なります。心に穴が開いた状態の親に、あれもダメ、これもやめてと行動制限をするのは逆効果。まずは向き合って、じっくり話を聞くことが大切です」とのこと。
人生の先輩として尊敬の念を忘れず、親の生活に干渉しすぎないことも重要、と3人。
場合によっては認知症の前段階として、第三者のサポートや助言が必要になることも。
「まだこのくらいでは、と思わずに、早めに地域包括支援センターなどで相談を。その際は、親の言動の変化など気になる点をメモして持参するのがおすすめ。親を見守る援軍は多いに越したことはありませんよ」(清家さん)
こんなケースには
- 【80代・母】「こちらの都合を考えず、用事がなくても何度も電話をしてきます」(AMさん)
→時間の感覚がないのは認知症のサインかも。直接会って話を聞き、必要があれば専門家に相談を(伊藤さん・富山さん) - 【80代・父】「子どもや孫に何度も同じ自慢話をします」(OMさん)
→承認欲求を満たす機会が減少し、自尊心を保つため昔の自慢をしてしまうことも。否定してプライドを傷付けないように(清家さん) - 【80代・父】「しんどい、と言って歯も磨かないし、顔も洗わない」(NFさん)
→体調の悪化により、動くのが面倒になっている場合も。どこがつらいのか詳しく話を聞いて(伊藤さん・富山さん) - 【70代・父母】「孫に甘く、何でも買い与えてしまう」(OKさん)
→「本当にありがとう。買うのは○個くらいでいいからね」など、必ず感謝とセットでお願いを(清家さん)
老親への向き合い方 POINT
- 〇 親の歩んできた人生を改めて聞き、価値観を理解する
- 〇 心身の老化を踏まえて、一呼吸おいて冷静に話す
- 〇 子も自分の生活を大切にし、親に干渉しすぎず見守る
- 〇 孫や行政、医者、ボランティアなど第三者の力を借りる
<これはなるべく避けて>
- × 責める、怒る、無視する
- × 親に内緒で物を処分する、変化を強要する
教えてくれたのは
京都大学 こころの未来研究センター
特定講師
清家 理(あや)さん
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/
京都ゆうゆうの里
看護師・介護支援専門員 伊藤 智美さん(右)
介護福祉士 富山 友加里さん(左)
https://www.yuyunosato.or.jp/place/kyoto/
(2020年10月17日号より)
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