京の年末年始を支える仕事人



開けたときの笑顔を思い作り続ける〝福玉〟

切通し進々堂 藤谷攻さん(76歳)

(左)福玉作りは11月初旬からスタート。「餅の皮は壊れやすいので、イライラして力が入らないようにしています」と藤谷さん。12月13日から店頭で販売され、値段は3000円~7500円

(上)中に入れる人形は約40種も。干支(えと)や魔よけの猿、商売繁盛の猫など、縁起物にこだわって選んでいるそう

「昭和30~40年代、祇園では福玉をいくつもぶら下げて歩く舞妓(まいこ)さんをよう見かけました」と話すのは、藤谷攻(おさむ)さん。祇園の老舗喫茶店「切通し進々堂」の店主です。

〝福玉〟とは、餅の皮でできた直径20cm前後の紅白の球で、中には人形などが入っています。舞妓さんがお茶屋さんに年末のあいさつに行ったときにもらう縁起物で、除夜の鐘が鳴り、年が明けるとそれを割って、出てくるもので新年を占ったそう。

藤谷さんが福玉を作り始めたのは約25年前。もともと作っていたお店から頼まれたのがきっかけでした。「作り方などは自分で見聞きして調べ、中に入れる人形はあちこちの展示会に足を運ぶなどしてよいものを探し求めました」

近年では一般の人の購入のほうが増えているとのこと。

「これを一年の楽しみやと言うて毎年買ってくれる人も。どんな人形を入れたら喜んでくれるかと、自分も楽しみながら作っています。年末の生きがいやね」

〝松〟の出荷作業は親族総出の恒例行事

松生産農家 岡本実雄さん(71歳)

いろんな話をしながらの出荷作業。右から2番目が岡本さん。息子の浩伸さん(中央)は「小学校のころから手伝っていて、特別なものを作っているという気持ちがありました」

クロマツの畑にて。「1本ずつ腰をかがめて苗を植えるのは大変。3~4年で出荷できるようになります」

木津川市加茂にある岡本実雄さんの農作業小屋を訪れると、そこは松のみずみずしい香りでいっぱい。門松用の枝が、大きさごとにずらりと並んでいます。毎年11月初旬から、息子の浩伸さん夫妻や親族と一緒に出荷作業を行うそう。

「余分な枝葉を取り、表皮のヤニを拭いて整えたら、12月頭には京都の生花市場に出荷します」。その数は大型トラック約1台分にも。

「160cmくらいのものが一番売れますね。会社などの門松用かな」。生け花用や神棚に供えるための小ぶりの枝もたくさん。

京都ならではの〝根引きの松〟は、と尋ねると、手がかかるため加茂で栽培している人は今はほとんどいないのだとか。

全体の出荷量も以前と比べるとかなり減ったとのこと。岡本さんが「体が動く間は続けていきたいですね」というと、浩伸さんがすかさず「じゃあ、あと20年はいけるな」。親族総出の出荷作業は和やかに進められていました。

府外編
京都府以外にも、京の年末年始の風物詩を守る仕事人がいます

伝統の火縄づくりで〝をけら詣り〟を支えたい

上小波田火縄保存会会長 岩嵜義孝さん(70歳)

他の会員とともになたで竹の皮をはぐ岩嵜さん。「半日で刃が切れなくなります。よい角度に研ぐのが難しいんですよ」

大みそかの夜から元旦にかけて、八坂神社で行われる〝をけら詣り〟。このとき御神火をいただく火縄ですが、実は三重県名張市で作られているもの。上小波田火縄保存会会長の岩嵜義孝さんによると、「もともと火縄銃の火縄として、稲作の農閑期に作っていたようです」とのこと。

約400年続くというその製法は、「刈り取った真竹(マタケ)の青い部分をはいで、中の白く柔らかなところだけを薄くそいでいきます。それで縄をなってよりをかけ、約3m30cmの長さに切断。3日ほど干し、紙やすりで整えて完成です」。

たくさんいた作り手も数年前にはただ一人となってしまいました。そこで、岩嵜さんが中心となり保存会を結成。技術を受け継いでいくことに。

「をけら詣りは京都の大切な風物詩。その火縄作りも途絶えさせたらあかんと思っています」。今年も、1000本の火縄が八坂神社へと納められます。

  • 縄をなう手も凍えそうな時期。竹が乾燥してしまうので暖房もつけないそう

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