「認知症の人が活躍できる場を」と、伏見区在住の一人の女性が始めた一風変わったレストランが関心を集めています。京都市内外のカフェなどを借りて、月1~2回行われているこの取り組み。今年9月に「大丸京都店」にて開催された様子を取材しました。
9月に「大丸京都店」で開催された「注文をまちがえるリストランテ」にて。キャストのひとり、田中さん(78歳)は料理を慎重に運ぶと、「どうぞ、ごゆっくり」とにっこり。テーブルの客も笑顔に
9月23日、会場となった「大丸京都店」8階の「ファミリー食堂」前には、食券を買い求める大勢の人が。そして午後3時、「注文をまちがえるリストランテ」がオープンしました。主催は、伏見区在住の平井万紀子(まきこ)さんが代表を務める「まぁいいかlaboきょうと」。
水や料理を運ぶのは〝キャスト〟と呼ばれる認知症の人たち。「パフェはどちらの方?」とお客さんに尋ねながら、笑顔で配膳しているのは、キャストのひとり堀田さん(81歳・女性)です。「こりゃ、こぼれそうやな」と慎重にコーヒーを運ぶのは、今回最高齢の岡田さん(96歳・男性)。そんな様子を誰もがあたたかく見守り、お客さん自ら配膳のサポートも。
時間がかかっても、時には注文をまちがっても、「まぁいいか」。そう笑顔で受け入れられるような社会になれば―。そのコンセプトは多くの共感を呼び、午後6時に閉店を迎えるまでに298人が来店。
同僚と3人で訪れたという女性は、「認知症のスタッフがとても楽しそうですね。いい取り組みなのでもっと広がれば」と話してくれました。
キャスト最高齢の岡田さん(96歳)。客として訪れた家族のテーブルで一休みするなど、マイペースで仕事をこなしていました
晏子さんも、ボランティアスタッフに車いすを押してもらいながら配膳
主催の平井万紀子さん(右)の自宅で。若いころは茶髪でパンタロン姿、活発だったという母・晏子さん(左)は、今も茶目っ気たっぷり
平井さんがこの試みを始めたのは、認知症になった母・晏子(やすこ)さんとの同居がきっかけでした。
若いころから働きものだった晏子さん。認知症発症後も「働きたい」と繰り返す母に、なんとか活躍の場を与えたい、と思いを巡らせていたそう。
そんなとき、東京で企画されていた「注文をまちがえる料理店」を知り、参加した平井さん。「地元京都でもぜひやってみたい」と、昨年3月、左京区の店舗を借りて1日限りの「まぁいいかカフェ」を実施しました。
その後、平井さんは「まぁいいかlabo きょうと」を立ち上げ、京都市内で開催を重ねていきます。参加するキャストやボランティアの輪も拡大。この日は、26人のボランティアが参加し、キャストのサポートなどを行いました。今回初参加という看護学生の女性は、「認知症の方がどんなふうに過ごされているのかわかりました。将来の仕事にも役立つと思います」。
今後は名称を「〜まぁいいかCafe〜 注文をまちがえるリストランテ」に統一。府内全市区での開催が目標だそう。
「認知症の人だけではなく介護する家族も働ける仕組み作りをしたい」という平井さん。
「介護で仕事ができない、という状況も問題。今後、認知症患者はさらに増加すると予測されています。介護をしたからこそ得られた経験や知識は、きっと社会に役立つ仕事につながるはず」
構想は広がります。
〈問い合わせ〉まぁいいかlaboきょうと(平井さん)TEL:090(3354)3445