美しい夕暮れは一期一会。でも、写真に撮れば、思い出に残しておけますね。清水さんによると、撮影のポイントは「明るさの調整です」とのこと。
「設定をマイナスにして暗めにすると、夕暮れがきれいに写ります。赤みを強く出すなら、色温度を高くしましょう」
三脚を使うと、手ぶれが防止できるとか。そして、覚えておきたいのが時間。日の入りの30分~1時間前が、空の色が変わるころです。
「西山がそびえる京都は、早めに夕日が沈みます。日没時間や夕日が落ちる場所が分かるスマートフォンのアプリを活用するのもいいですね」
SNSの中でも、特にインスタグラムにアップするための写真は縦向きがおすすめだそう。
「横写真だとアップしたときに写真が小さくなってしまいます。広がりを見せるには、縦写真がベター。こうしたテクニックも抑えつつ、自分好みの写真を撮影してみてください」
夕方になるにつれ、空は次第に赤く染まります。吉村さんに、そのメカニズムを聞きました。「太陽光には波長の違う多様な色の光が混ざっています。光は電磁波という波の一種で、波の山から山までの長さを波長(図①)と呼びます」
波長が長い光は赤、短い光は青や紫に見えるとか。「太陽光が空気の分子やちりにぶつかって散らばることで、空に色が付いて見えます。波長の短い青い光は分子にぶつかる確率が高く、散らばりやすい傾向に(図②)。青い光が広がるので、昼間は青空になります」
昼は真上にある太陽が、だんだんと傾いていくと…。「太陽光が大気層を横切る距離が長くなって、青い光は散乱され尽くしてしまいます(図③)。青い光が届かず赤い光だけが残るので、夕空は赤く見えるのです」
図➊
図➋
図➌
「枕草子」の有名な一節「秋は夕暮れ」。平安時代、清少納言が秋の夕暮れの美しさに思いをはせたことを伝えています。
「春の桜と同じように、秋の夕暮れは日本文学で主流の美意識。和歌でも多くの作品に秋の夕暮れが登場します」とは、和歌に詳しい林和清さん。
秋の夕暮れを詠んだ和歌として有名なのが、「新古今和歌集」の〝三夕(さんせき)の歌〟です(上記参照)。
「作者は寂蓮、西行、藤原定家。奥深い山の景色が思い浮かぶ寂蓮の歌には、もの悲しさを感じますね。西行は『出家の身でありながらも夕暮れをあはれに思う』と詠んでいます。水鳥である鴫(シギ)が飛び立ち、辺りに静寂が戻る。その一瞬の出来事が、夕景の情緒を引き出しています」
藤原定家の歌は、「花ももみじも」との言葉が印象的。
「春の桜と秋の紅葉。そのどちらも〝ない〟と詠むことで、わびしさを際立たせているのです」
また、平安時代中期の歌人・良暹(りょうぜん)法師は、大原の夕景色を歌にしました。百人一首にも選ばれた和歌です。
「良暹法師は出家して大原に住んでいました。山深い大原の夕暮れに、寂しい気持ちを一層かき立てられているのです。
これらの歌に共通しているのが、作者たちが秋の夕暮れに寂しさや切なさを感じていること。その心情は、時を経た現代にも通じています」
歌人、現代歌人集会理事長、
リビングカルチャー倶楽部講師
林和清さん