この夏、国の登録有形文化財でもある「中野家住宅」が、飲食店「なかの邸」として生まれ変わります。新たな観光スポットとしても期待されていますが、もう一つ新たな試みが―。一足先に訪ねてみました。
阪急「西山天王山」駅から北東に向かって約8分、旧西国街道を歩いていくと昔ながらの邸宅「中野家住宅」が姿を現します。
この辺りは、かつて茶屋が軒を連ね、中野家もそのうちの一軒だったとか。江戸末期に建てられた「主屋(おもや)」は、間口の広さに近郊農家の、格子の表構えや間取りに町屋の特徴が見られます。敷地内に立つ「土蔵」、戦後(昭和26年)の増改築の際、京の町屋大工棟梁だった九代・北村傳兵衛によって造られたという「茶室」と合わせて、国の登録有形文化財になっています。
近代は酒屋を営み、政財界でも活躍した中野家でしたが、2014年に「中野家住宅」として長岡京市に邸宅を寄贈しました。そこで、同市がこの築150年ほどの貴重な文化財を活用しようと広く呼び掛け、決定したのが飲食店「なかの邸」。7月初旬にオープンする予定です。
「調理や接客をするスタッフは障がいをもつ人々です」と話すのは、小林明弘さん。同店を提案し運営を行う、障がい者支援団体「一般社団法人 暮らしランプ」のマネジャーです。そう、ここで働くスタッフは、障がいのある人たち。開店前の整備から関わっているのだとか。
「屋内の掃除や雑草抜きといった庭の手入れは、面積が広い分やはり大変でした。ですが、スタッフの多くは、手間をかけてする仕事が得意なんです。丁寧に時間をかけることのできる、大切な仕事の一つになりました」
「なかの邸」の営業は、午後6時~10時(9時30分LO、日月休)の夜間。障がい者の就労形態としては珍しいそう。
「障がい者の就労は、一般的に日中が多いです。しかし、夜にしか働けない人もいるのではないかと考え、夜間の飲食店という新しい職域に挑戦しました」と小林さん。「なかの邸」は、障がい者の働き方についても注目されているようです。
料理は、京都府産の食材にこだわったセットや一品など。酒類も20~30種そろいます。
また、今後は日中もスペースを活用する予定。同市の竹を使った箸作りや老舗に教わるちょうちん作りなど、専門家によるワークショップを充実させていきたいとか。
「駅に近く、周辺にゲストハウスやホテルが新しくできている地域。地元の人はもちろん、外国人や観光客など、昼も夜もいろんな人に気軽に来て楽しんでもらいたいです」(小林さん)
問い合わせは、「なかの邸」(長岡京市調子1丁目6-35)=TEL:075(959)2877=へ。