牛肉、豚肉、鶏肉といった肉類に含まれる、さまざまな栄養素。体の中での働きに目を向けると、長寿との関わりが見えてきます。立命館大学食マネジメント学部・准教授の、保井智香子さんに話を聞きました。
「元気で長生きするために大切な筋肉。筋肉量は年齢とともに減少し、動くのがつらくなってきます」と保井さん。「運動量の減少に伴い食欲も低下し、栄養が足りなくなるという悪循環が起こる」と指摘します。
年齢を重ねて筋肉量が減少することを〝サルコペニア〟と呼ぶそう。
「肉を食べ、筋肉をつくるタンパク質をとることが、サルコペニアの予防になります。肉には、人の体では生成できない必須アミノ酸が含まれています」
必須アミノ酸の中でも、BCAAと呼ばれる成分が筋肉の合成に大きく関わっています。
「BCAAとは、バリン、ロイシン、イソロイシンの総称。植物性タンパク質が豊富な米や大豆などよりも、肉をはじめとした動物性タンパク質が含まれる食べ物の方がBCAAを効果的に摂取できます」
80歳を超えると発症リスクが高まるとされる認知症。
「肉の栄養素の一つ、アラキドン酸は、認知機能の向上が期待できるといわれています」(保井さん)
アラキドン酸はリノール酸から合成される必須脂肪酸。脳の機能を担う神経細胞の生成を促します。
「ただし、とりすぎには注意が必要。生活習慣病につながる危険があります。肉の食べすぎには注意し、バランスよく取り入れることを心掛けましょう」
必須アミノ酸のトリプトファンも、肉に多く含まれる成分。
「トリプトファンからつくられるのが、脳内神経伝達物質のセロトニンです。セロトニンは精神を安定させる作用があります。うつ病の発症は、セロトニンの不足も一因といわれているんです」
体だけではなく、心の健康にも肉が関わっているとのことでした。
そのほかにも、健康に関係する栄養素が。
「肉の中でも羊肉に多く含まれているのがカルニチン。細胞内のミトコンドリアに脂肪酸を運ぶ役割を果たしています」
ミトコンドリアは脂肪酸を材料に、エネルギーを生み出しているのだとか。つまり、脂肪を燃焼させているのです。
「カルニチンの不足は細胞の老化につながるようです。カルニチンは体内にもありますが、年をとると減少。肉を食べるなどして、補給するといいでしょう」
細胞の酸化を防ぎ、老化を防止してくれるのがカルノシン。抗酸化作用を持つ栄養素です。
「カルノシンは疲労回復にも役立ちます。特に、鶏肉に目立つ成分です」
牛肉は鉄分、豚肉はビタミンB群と、肉の種類によって多く含まれる栄養成分が異なります。
「鉄分は貧血のとき、ビタミンB群は疲れたときに効果的。体の状態に合わせて食べる肉を選び、体調管理をするのもおすすめです」
こうした肉のさまざまな栄養素が、〝長生き〟につながっているのかもしれませんね。
さまざまな栄養素が含まれる肉ですが、そればかり食べていては、栄養が偏るので健康のためになりません。1面で解説をしてくれた京都ノートルダム女子大学教授の加藤さんも、「主食、主菜、副菜、汁物と、バランスの良い食事をすることが大切です」と話します。
「主菜は肉ばかりではなく、魚や卵なども取り入れてください。脂質をとりすぎないよう、野菜もしっかり食べましょう。肉も1種に偏らず、牛肉や豚肉、鶏肉、ジビエなどさまざまな種類を組み合わせて」
とはいっても、毎日きちんとした食事をとるのは大変です。
「1~2週間単位で栄養バランスのとれた食生活を送っているのかをチェックしてみるといいですよ」