1面で紹介した「三木鶏卵」のだし巻き卵のように、「これを買うなら、あの店で」と決めている人もいました。
「『桝俉(ますご)』で千枚漬けを買わないと正月が来る気がしない」(MS・68歳)、「わが家はいつも年末に『鮮魚木村』でお刺し身を買うのが恒例です」(TM・70歳)、「親族が集まる席のために、『津之喜酒舗』に日本酒を買いに行きます」(NM・41歳)
また、「錦の魚屋さんで必ずりゅうひ巻きを買います。亡き祖母の大好物だったので、祖母を思い出して毎年買い続けています」(MN・62歳)。家族の思い出とともに、お正月のわが家の味が引き継がれているんですね。
そのほか、錦市場に行くことで正月気分が高まるという読者も。
「12月の最終月曜日に錦市場に行きます。買うものは決めていかず、ウロウロ見て回って、欲しい品があれば購入。買い物だけではなく、年末の雰囲気を味わえる感じが好きです」(MM・46歳)
今年も、錦市場は多くの人でにぎわうはず。その一人一人が来る年のための買い物をし、家路へとつくのですね。
三条寺町の角。ここでも、京都の師走を感じられます。
京都で〝お肉〟といえば〝牛肉〟。牛肉好きと言われる京都人の嗜好(しこう)を象徴する風景が、すき焼きの老舗「三嶋亭」の前にできる行列です。
「三嶋亭に並び、みんなで食べるすき焼き用のお肉を買います」(MH・45歳)という人も多数。
また、こんなエピソードも。
「毎年12月25日を過ぎたころに、『三嶋亭』へ。結婚して最初の年末に義母に連れて行ってもらいました。年越しはすき焼き、年明けはお鍋です。その義母は2年前に他界。年末の風物詩だった『三嶋亭』への買い物は私一人になりました。帰り道、あんみつを食べて帰るのがお決まりのコースだったので、昨年は義母を思い出しながら食べて帰りました」(SF・40歳)。SFさんは、義母と行列に並びながら話したことも、懐かしく思い出すそうです。
三嶋亭の来客が増えるのは、12月28日ごろから。多いときは店の前に40人以上が並ぶこともあるそうです。寒い中、列に加わりながら思い描いているのは、きっとぐつぐつと煮えたすき焼き。家族で特別なごちそうを囲み、新年を祝う光景が目に浮かびます。
年中行事や季節に応じて、「このときはこれを食べる」という食文化が根付いている京都。正月準備にもその精神は息づいています。例えば、京都の雑煮は丸餅を使い、白みそ仕立てで作られることが多いですよね。
「白みそと言えば『本田味噌本店』。年末になると店頭にはおめでたいおきなや美しい女面の能面が飾られます。晴れやかな雰囲気も味わいながら、正月用の白みそを買って帰ります」(TY・73歳)
「わが家では、お正月のお餅は近所の和菓子屋さんで買います。つきたての丸くて柔らかいお餅を家族みんなが楽しみにしています。お餅を買うのは年に一度くらいで、わが家にとっては特別なこと。餅取り粉にまみれ、袋の中で押されていろいろな形になっているお餅はとても愛らしいものです」(KK・52歳)
和菓子にも京都らしいこだわりが。
「毎年12月31日に、『仙太郎』さんで花びらもちを購入。元旦に家族みんなでいただくと、お正月だなあと実感します」(OR・32歳)。丸い白餅にみそあんや甘く煮たゴボウなどをはさんだ京都の正月を代表する伝統菓子〝花びらもち〟。毎年、購入する店を変えて楽しんでいる人もいましたよ。
読者の皆さんの声からは、お正月というハレの日はなおのこと、食を通して季節感を大切にしようとする京都の人の心意気が伝わってくるようです。
お正月準備は、食材ばかりではありません。それぞれの家の玄関まわりも、しめ飾りをするなど迎春モードに模様替え。
「29日までにお掃除を済ませ、お正月飾りは一夜飾りにならぬよう30日までに」(YK・53歳)。「玄関には根付き松を飾ります」(TT・68歳)。「根付き松」は「根引き松」とも呼ばれる根のついた松。〝根が付きますように〟〝成長し続けますように〟との思いで飾られる、こちらも京都の習わしです。
街を歩くと、ポチ袋を買う人の姿も見られるころ。
「毎年どんな柄にしようかなぁとワクワクしながら買っています。お正月気分を一足先に味わえて楽しいです」(IM・33歳)。帰省する家族や来客の顔を思い浮かべながら、熱心に選んでいる様子がほほえましいですね。
そして、迎える大みそかの夜。
「八坂神社の『をけら詣り』に出かけています。火縄をいただいて家族と一緒に帰るのはとても楽しいです」(YA・35歳)
家族と参道をゆっくり進み、火縄をくるくる回しながら帰路へ。それぞれが「ゆく年」「来る年」への思いを胸に抱くなか、京都の新たな年が幕を開けます。