生活のいろいろなシーンで、つい…。
どうしてうっかりともの忘れをしてしまうのでしょう。気になる認知症との違いは? 京都認知症総合センタークリニック顧問の秋口一郎さんと同クリニック所長の川崎照晃さんに聞きました。
「人間はいろいろな情報を脳に入れ、それを取り出す、つまり思い出すという作業をしています。これが〝記憶〟で、二つの種類があります」とは秋口さん。
「一つは、繰り返し覚えて頭の中に残っていく一般的な知識としての記憶。もう一つは、〝近い記憶〟と呼ばれるものです。例えばスケジュールのように、今決まったことを、近いうちにやらなくてはいけないというようなことです」
うっかり忘れてしまう原因は何でしょう。
「一つのことに注意して、集中して覚えれば記憶が残りますが、そうでなければ残らないこともあります。脳の老化も原因だと考えられます」
脳の老化について川崎さんは、「目や耳など、ほかの体の部分と同じように、脳の機能も年齢と共に衰えます。ですが、『忘れないようにメモを取る』など、人間は経験上、機能の低下を補う方法を知っているんです」と言います。
「一般論としては、60歳、65歳ぐらいから脳が老化すると言われます。もっと若い世代でももの忘れをよくする人もいるかもしれませんが、それはきっとスケジュール過多。忙しすぎてキャパを超えているのです」(秋口さん)
気持ちが落ち込んでいるときや睡眠障害がある場合も、記憶の出し入れが難しいことがあるそうです。
「加齢に伴う一般的なもの忘れは、『忘れている』という自覚があります。例えば、『赤いものは?』と聞けば、『イチゴ』『リンゴ』『トマト』とか、たくさん出てきますね。これがすぐに出てこなくなったり、出てくる数が減ってくる。これが脳の老化による、もの忘れ。脳の機能が衰えて、記憶を蓄えてはいるのだけど、すぐに取り出せないのです。これは普通の老化です。ですが認知症のもの忘れ、記憶障害の場合、同じ質問をすると、その時は思い出そうとしているけれど、しばらくたったら思い出そうとしたこと自体を忘れてしまいます」と川崎さん。
認知症の場合は、〝繰り返す〟という特徴も。
「言ったり、聞いたりしたことを忘れてしまいますから、同じことを繰り返してしまいます。食事をしたのに、食べたこと自体を忘れてしまって、食べてないと言ったりします。認知症というのは〝病気〟ではなく〝状態〟です。さまざまな原因で脳の働きが衰えてくる状態を指しています。記憶障害がよく知られていますが、それだけがサインとは限りません。物事を行う機能が衰えたり、言葉の能力が衰える人もいます」(川崎さん)
うっかりもの忘れするのは普通のこととは言っても、できるだけしないようにしたいですね。うっかりを予防するためにできることや気を付けたいことを、川崎さんに教えてもらいました。
忘れないようにとメモを書いても、どこに書いたかを忘れてしまったり、メモを紛失してしまったりすることも。「いつもここに書く」とルールを決めるとよいとのことです。
脳トレは、オセロ、碁、将棋など、適度な刺激と緊張感があり、相手とコミュニケーションをとれるようなものを。ただし、ストレスに感じるような緊張は避けましょう。
文章を書くには構成を考えたりしなくてはならないため、脳を使うそう。日記をつけたり、手紙を書いたり。日常的に文章を書く習慣を取り入れてみては。
エクササイズなどで筋量を維持して、加齢による衰えを予防。自由に活動できる状態を維持することが、脳にもいいといわれているそう。
例えば、献立をたてて買い物に行き、料理をする。普段何げなくやっていることが、脳の刺激になるのだとか。年齢を重ねると、失敗したり、おっくうになることもありますが、できるだけ自分でやることが大切。周囲の人も、あまりおせっかいは焼かずに見守る姿勢で。