早めの対策には、普段から本人と接することが多い家族の〝気づき〟がポイントになります。
「『テレビの音量が大きくなった』『話しかけても聞こえていないことが多くなった』といった家族からの指摘がきっかけになっているケースも多いですね」と和賀さん。
老人性難聴は徐々に進行するため、本人では聴力の変化を自覚しにくいそう。
「電子体温計の『ピッピッ』といった周波数の高い音から聞こえにくくなることが多いです。進行して、会話がスムーズにできなくなったと感じたときが受診の目安です」
難聴の種類の特定には、専門の医療機関での診察や聴力検査などが必要。自分は老人性難聴と思い込んでいた人が、実は他に原因があり、手術によって改善した事例もあるそうです。
では、対策についてはー。
「老人性難聴の場合、治療は困難なケースがほとんどです。改善するには、補聴器などを使って聞こえの働きを補う必要があります」(和賀さん)
医療機器である補聴器の使用には、まず専門医の受診と診断が必要です。検査結果や必要書類などを持って、専門的な設備や技能を持っている認定補聴器専門店で購入するのが一般的です。
「性能では骨伝導式や気導式、装着スタイルは耳穴式や耳かけ式など、さまざまな種類があります。聴力だけではなく、いつ、どこで、どう使いたいかTPOに合わせて、予算に応じたものを選びましょう」
すぐに購入せず、装用感を試しながら調整を重ねることで、自分に合った補聴器に出合えるとのことです。
軽度のうちから早めに装用を開始すると、機器から聞こえる音声や装着感に慣れやすくなり、装用効果がより高まるそう。そのためにも、早期の発見と受診が大切になってくるのです。
「補聴器を使うことで、『明るくなった』『積極的に出かけるようになった』というケースもありますよ」
また、〝手話〟や口の形で言葉を伝える〝読話〟といった、コミュニケーション手段や、要約筆記(文字通訳)などのさまざまな〝情報保障〟を組み合わせることも一つの方法。周囲の協力も大切とのことです。
周囲の人ができる対策について教えてくれたのは、(株)オトデザイナーズ代表で、京都光華女子大学 健康科学部 医療福祉学科の客員教授の坂本真一さんです。坂本さんは音響学や音声学などの研究結果をもとに、企業などで高齢者に対する接客指導も行っています。
「まず最初に知ってほしいのが、相手にどう聞こえているかということ」
坂本さんが老人性難聴の人の聞こえをシミュレーションしたところ、ひびわれたような、ひずんだような音になることが分かったそう。一音一音の違いがはっきり分かりにくいため、言葉を理解するために、何度も聞き直すことになるのですね。
「周囲が心がけるポイントは、適度な音量で、一つ一つの言葉を、はっきり発音すること。そして、普段よりも2倍くらいの時間をかけてゆっくり話すこと。音が聞こえているか、言葉を理解できているかを確認しながら、その人に合った音量やスピードを見つけていくといいですね」
時間がかかって面倒と思うかもしれませんが、聞き返しや誤解などが減少することで、コミュニケーションの効率が良くなったというデータもあるのだとか。
「お互いがきちんと知識を持つことで、相手との向き合い方や意識が変わり、気持ちよいコミュニケーションにもつながっていきます。話し方を変えても改善されない場合は、耳鼻科を受診することも大切ですよ」
特に聞き取りにくいというのが、「タ、パ、カ」「ナ行とマ行」といった周波数の成分が似通った言葉。脳に送られる信号が減少・変質するため、早口だと聞き取りにくくなる傾向もあるそうです。
「小さな声が聞こえにくいのは想像できると思います。では、大声だといいかというと、そうではありません。老人性難聴の場合、大きな声はより大音量に感じる『リクルートメント現象』が起こるのです。高齢者に大声で話しかけると、『びっくりした!』『うるさい!』などと言われることがあります。つまり、大声は逆効果ともいえます。話しかけて相手の反応があるなら、音は聞こえているということ。聞き返されたとしても、それ以上は音量を上げないことです」
また、低い声の方が高齢者には聞きやすいと言われることもありますが、かえって聞きにくい場合が多いそう。それよりも、前述のように、ゆっくりと一語一語を丁寧に発声することを心がけてほしいそうです。
話しかけるときはここに注意