笑う門には福来たる~女興行師 吉本せい~
大阪松竹座にて11月25日(金)まで上演中
女興行師の光と影を演じる藤山直美の真骨頂!
今や、日本中を笑いで埋め尽くしている「吉本興業」の芸人やタレントたち。その笑いの王国を、一代で築き上げた吉本せい(藤山直美)の、波乱に満ちた生涯の物語。
興行師を夢見た夫・泰三(田村亮)と「通天閣みたいに大きゅうなって、大阪中、笑いで埋め尽くしたるねん!」と誓い合い、女興行師として頭角を表す“せい”。人を喜ばす仕事に人生を賭けた彼女だったが、その実生活では、夫に先立たれ、幼い2人の娘も、息子(西川忠志)も病で亡くした。ひそかに心引かれた人(松村雄基)は自ら命を絶つという、耐えがたいほどの多くの悲しみを抱えていた。戦争で全てを焼き尽くされた時でさえ、「笑いは生きる力や」と、立ち上がり「女今太閤」とまで呼ばれた“せい”の光と影。そんな女主人公を、藤山直美は、どこか達観した潔さと哀感漂う演技で、見る者を魅了する。笑いの中に涙がある、藤山直美の真骨頂だ。
また、赤い人力車で高座入りする天下の噺家(はなしか)・桂春団治(林与一)、“せい”の意志を引き継いで、のちに吉本の名物会長と呼ばれる弟の林正之助(喜多村緑郎)をはじめ、大阪の演芸史を彩った人々も登場。“せい”を取り巻く人間模様、古き良き時代の大阪の情景など、上方の笑いの奥行きを堪能できる、心地よい舞台である。
(文筆業 あさかよしこ )