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試写室・劇場から

ティエリー・トグルドーの憂鬱

11月26日(土)から京都シネマで公開

©2015 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

働きたいという希望を打ち砕く現代社会の“魔物”を思い知る

51歳のティエリー・トグルドーは失業中で、ハローワークに通ったり、スカイプによる企業面接を受けたりしているが、なかなか仕事が決まらない。住んでいるアパルトマンの売却を銀行から勧められるが、もう少しでローンの返済が終わるためもったいないので、所有するトレーラーハウスを売ろうとしたら価格で折り合いがつかない。妻と、障がいがある息子のために生活の安定をと考える彼がついに得た仕事は、スーパーマーケットの監視員だったが…。

このような社会派ドラマがフランスで大ヒットしたと聞き、実にフランスらしいと思ったが、ここに描かれていることは日本の労働環境にも当てはまる。リストラや、思い通りの仕事につけないこと、先の見えない不安感。ステファヌ・ブリゼ監督は、ドキュメンタリーのタッチで、主人公と周囲の人々を取り巻く社会的システムの厳しさ、冷たさをきめ細かく描き込んだ。そして、思わぬ結末! それにかっさいを送るのか、主人公の今後に思いを寄せるのか。見る者にさまざまな問いかけを発する問題作だ。

主演のヴァンサン・ランドンは、本作でカンヌ国際映画祭とフランスのセザール賞の主演男優賞を射止めた。ふつうのおじさんを演じた彼の、瞳にひそむ悲哀の影が忘れられなくなる。

(ライター 宮田彩未 

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