芸術の秋、歴史ある文化財の鑑賞を楽しもうという人もいるのでは? 仏像や古文書、庭園といった文化財を目にできるのは、長年守られ、継承されてきたから。その保存や手入れ、修繕の方法を探ってみました。さまざまな工夫を知れば、鑑賞するときの思いも深まりそうです。
庭園は日々成長していく植物がつくり出すもの。江戸時代前期、小堀遠州(えんしゅう)が手掛けた高台寺の庭園は当時の姿が保たれ、国の史跡・名勝に指定されています。
明治時代には荒れていたというこの庭園。徐々に修復が進められ、今はマツやモミジなどの木々が美しく整えられています。高台寺専属作庭家・北山安夫さんは、こちらの庭造りを30年ほど前から担当。
「遠州が造った当時の様子は、記録されているわけではありません。ですが、地中に残った木の根や土の層を見れば、いつ、何が植えられていたのかがわかります。かつての姿を伝えられるよう、植え方を考えます」
新たに植樹する場合は、成長した後の景色を予測し、どの木を植樹するかを検討するとのこと。
欠かせないのは除草、水やり、剪定(せんてい)といった毎日の手入れ。「基本的な作業の積み重ねが庭園を守ることにつながるんですよ」と北山さん。
石組みは動かしたりせず、そのまま残しているそう。手入れするところと保存する箇所の見極めも重要です。
「人と自然、昔と現代をつないでいるのがこの庭園です。拝観者には庭園を見て、江戸時代の人と同じ安らぎを感じてもらえたらと思います」
「所蔵資料の移動は年明けを予定。今は旧館で資料の保存状態などのチェックを行っています」とは、京都府立総合資料館の副館長・平井俊行さん。同館は来年4月以降にオープンする新館への移転準備を進めるため、9月から閉館しています。
案内されたのは、ユネスコ世界記憶遺産に登録された国宝「東寺百合文書(ひゃくごうもんじょ)」の収蔵庫。東寺に伝わり、現在は京都府が所蔵する約2万5000通の中世の古文書がきりのたんすに入っています。その横に並ぶのは、もともと文書が保管されていたきり箱。きりは湿気を吸収するので、傷みが少ない状態で文書が伝わったのだそう。
同館歴史資料課の小森浩一さんは「保存や出納のことも考え、今はきりのたんすに入れ替えました」と話します。
近年力を入れているというのが文書のデータ化。「インターネット上で画像を気軽に見られるので実物を持ち出す機会が減り、保存にも役立っています」
移転準備の作業現場では、文書が正しい引き出しに保管されているかの確認が行われていました。ここで記者が驚いたのが、手袋はせず素手で資料に触れていたこと。
聞けば、手袋をすると布の繊維が和紙に絡まって、文書を傷つけてしまう場合があるのだとか。きれいに手を洗い、素手で扱うのが基本。作業におけるこうした注意も保存につながるようです。