晩年を西山の十輪寺で過ごしたと伝わる在原業平。「伊勢物語」の主人公としても知られていますね。この「伊勢物語」のオペラ化に挑戦したのが、大枝・大原野地域の住民が中心となって集まった「西山文化を語る会」。6月の上演に向けて稽古に励んでいます。
サッと指揮棒が上がると、ピアノの伴奏がスタート。「まだ宵なれど」と深いテノールが重なり、そこに「花の散り敷く桂川」とメゾソプラノが応じます。
桂西口会館の一室で行われていたのはオペラ「業平 Narihira」の稽古。「伊勢物語」と、大原野が舞台である能の「小塩(おじお)」を基にしたオリジナル作品です。
「今から練習する第2幕は悲恋の物語。業平と藤原高子(たかいこ)の愛の逃避行を描いています。2人は都を離れて大原野まで逃げてきました」とは、作曲・指揮を担当する追手門学院大学客員教授の門田展弥さん。
練習では、門田さんと業平役の清水徹太郎さん(テノール)、高子役の安本佳苗さん(メゾソプラノ)が役の心情について意見を交わしていきます。業平が「都を離れて早数里、人影見えぬ山里に着きにけり」と言い、高子が「ここは西山大原野、雲間に見ゆる月明かり」と答えた後の場面で、門田さんは「甘く、愛に陶酔しているイメージで」と指示を出しました。
「これまでの焦りや不安から、どの時点で気持ちが切り替わるんでしょうか」と清水さん。安本さんは「高子と業平では意識に差があるような…。『月がきれい』と言う高子は、逃避行の状況がよくわかっていないような気もします」
そうした意見に「テンポが緩やかになるまでは、業平の焦りを表現してください。高子は都から離れてきて、安心しているのでしょう」と門田さん。このようなやりとりを重ね、役柄の気持ちを探っていくのだといいます。
「地元の方の力があったからこそ、実現にこぎ着けました」と話す門田さん。
「十輪寺の住職・泉浩洋さんが会長となり『西山文化を語る会』を結成したのが3年ほど前。昨年、地域の魅力を発信しようとオペラの制作に乗り出しました」と言うのは、結成当初から同会に所属する藤本廣志さんです。
国際日本文化研究センター名誉教授の笠谷和比古さんは台本を担当、「伊勢物語」を研究している関西大学教授・山本登朗さんは監修を務めました。山本さんは西京区在住、門田さんと清水さんも京都市立芸術大学出身と、地域に縁のあるメンバーが中心となっています。
台本や曲が出来上がったのは3月のこと。「なかなかタイトなスケジュールなんです」と門田さんは苦笑い。「清水さん、安本さん、そしてバリトン担当の福嶋勲さんの3人の出演者と急いで練習を進めています」(門田さん)
第1幕では、業平の亡霊が旅の僧に西山の名所を紹介するそう。「十輪寺や大原野神社が登場します。このオペラをきっかけに、西山の魅力に気付いてもらえたらうれしいです」(門田さん)